帰国したタイの変な日本人

バービアを愛した中年デブの元タイ沈没者がタイを想ってタイを舞台にした小説のようなものを書いてます。

腹上死して生まれ変わってタイ人に48話

生産機械メーカーのタイ法人に勤務するユウイチは泥酔しながらも若いゴーゴー嬢をホテルに連れ込み行為の最中に突然死してしまう。

死んだはずのユウイチは目覚めたとき、タイ人中学生の【アット】になっていた。

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第48話 ~社会人編~ ノックさん 
 
 

 
1997年4月1日。アットの社会人としての生活が始まった。
4月1日に出社する新入社員はアット1人。
これは今年の新卒採用枠が1名という訳ではなく、タイは日本のように4月1日に新社会人になると言う風習が無いから。
 
 
事務のスタッフさんによる簡単な入社説明を終えて配属されたのが生産部機械設計課のBグループ。
 
機械設計課には2つのグループがある。
Aグループは会社が完成品として販売している切断やプレスなどの汎用機械の改良や新型機械のための設計部署。
Bグループは顧客の要望に応じて1からオーダーメイドの機械を設計製作するための設計を担当する部署。
 
同じ機械設計といってもAグループはすでにある基本設計の細かい部分の改良したり、新製品を開発するので社内で協議しながら設計を進める。
Bグループは機械を発注したお客様や実際に機械を組み立てる製造部門と密接に話し合いながら一緒に機械を1から設計する。
 
社内では汎用プレス機や汎用切断器の販売額が圧倒的に多く、会社の利益を生み出す部署なので、人員もAグループの方が多い。
設計部門でも学者肌の優秀な人材が多く花形部署ではある。
 
毎回ゼロから機械を設計し、お客様とも密接に関わる設計Bグループの方が仕事はキツイだろうがやりがいはあると思う。


二つのグループを束ねる設計課長は高瀬さんという日本人。
設計Bグループのトップはソムチャイさん(48)という俺の知らないタイ人だった。
ソムチャイさんから俺の指導担当に指名されたのはノックさん(34)だった。
 
 
 
このノックさんは前世からよく知っている。
 
俺が前世で死ぬ数年前から社内の技術系タイ人のトップである生産部のゼネラルマネージャーになった男だ。
 
日本人と仕事で絡む分には温厚で冷静な対応をするが、タイ人の部下からは恐れられている。
ノックさんは社員として勤めながら、いくつもの会社を自分で経営し、その会社は機械製造会社から外注される業務や材料納入業務を多く受注している。
 
 
【外注先で社名にNのつく会社はすべてノックさんの会社だ】
 
と言われるように、機械製造会社からはNシステム、Nトレーディング、Nサポートといった会社に材料やサービスの発注をしており、それらの会社はすべてノックさんの所有している会社である。
 
タイ人の部下に対してはその会社を通しての物品購入を公然と指示している。


 
ノックさんが巧みなのは、日本人決済が必要な単価が10万バーツ以上もしくは合計発注額が30万バーツ以上の材料や物品には手を出さず、注文書の合計金額が主に機械製造に関わる単価の安い副資材(洗浄剤、溶剤、絶縁テープ、半田、結束線、)やマーキング材やスケールなどの安い工具類などを自分の会社所有会社を通して購入させている。
 
材料や工具以外にも会社のレンタルパソコンやソフトウエア導入、クリスマスパーティーの賞品の段取りや会社敷地内で行われる食事会や式典などの食事や酒の手配までノックさんの会社が関わっている。
 
クリスマスパーティーのくじ引きでの人気賞品の金のネックレスは会社が購入しても経費として税務署に認めてもらえないため、提供できるのは僅かであった。

ノックさんの会社が間に入ったことで金のネックレスが大量に賞品として提供されて以来、クリスマスパーティーは大きな盛り上がりを見せて社員の意欲向上や離職率低下に貢献していた。

それ以外にも客先のタイ人担当者向けの接待で使用する風俗店の支払いなどにもノックさんの会社が間に入っている。

 
このように会社に貢献し、他の会社に比べても価格は5%も違わないから誰も問題にはしないし、重宝されている。
Nグループへの発注額は年間数千万バーツになりノックさんはかなりの副収入を得ていたと思う。

20年後に技術系タイ人のトップになって副収入を挙げる仕組みを作りだしたノックさんに出来るだけ媚びて後ろ盾になってもらおう。
 

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「ピーノック!アッタポンです。新人なので掃除でもマッサージでも何でもします!日本語も出来るので通訳としても使ってください。どうかよろしくお願いします。」
 
 
 
「大学出なのに変わった新人だな。とりあえずそこの社内設計指針でも読んでいろ。」
 
 
20年後には社内の技術系タイ人スタッフのトップになるノックさんに気に入られるように雑用に励む。


 
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この設計Aには担当日本人である山元さん(46歳独身)がいる。
俺が前世でタイに駐在したころには居なかった人だ。
 
頭が良く仕事が出来る人だが小太りでハゲでいつも無精ひげを生やしている。不潔感が漂っておりタイ人女性にもモテない感じの人だ。

俺も前世では死ぬまで独身だったから人の事は言えない。
しかし俺の場合は20代でタイに赴任したことで当時付き合っていた彼女と別れたため婚期を逃してしまったが、最近までずっと日本に居ても46歳まで独身とは相当痛いヤツだと思う。
 
タイ人からつけられた山元さんのあだ名はムー(豚)。
タイ人から豚と呼ばれる46歳独身日本人は哀れすら感じるがタイ語が全く分からない山元さんはタイ人から豚と呼ばれても気にしないようだ。
 
確かに言われてみるとなんとなく豚に見えなくもない。太っていて肌がピンク色だし。


小太りハゲは良いとしても、髪を短めに整えてひげは剃った方がタイ人受けは良いとアドバイスしたいところだが、あまり日本人と仲良くしたり自慢げに通訳すればタイ人の同僚に嫉妬されるため接触は極力控えるようにしている。

前世の俺が知らないということは、これから出世して主要ポストに就くことも無い山元さんと仲良くする必要も無い。

なので山元さんに通訳を頼まれるとやんわりと断る。
 
 
「すみません山元さん。僕はピーノックの部下なので勝手なことは出来ません。まずピーノックに言ってください。ピーノックが直接僕に指示しないとお手伝い出来ません。」
 
 
山元さんは忙しいノックさんに遠慮しているのか、通訳を頼まれることが稀になった。

日本人と結婚するのをあきらめてタイ人で若くて可愛い子を探してはどうかとアドバイスしようかと思っていたら山元さんはヨーロッパ方面に転勤になってしまった。
 
 
 
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