腹上死して生まれ変わってタイ人に121話
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第121話 告白
2015年4月。
俺は本社の村上専務から急な呼び出しを受けて本社に向かった。
理由は間違いなく先日のブラックメール。
俺には一切後ろ暗いところは無いが、対応を誤ればクビになるかもしれない。
「アット。呼び出した理由は・・・分かるよな?」
専務室に入った俺に、村上専務は挨拶も無しにいきなり本題に入った。
「はい。」と短く答えた俺に村上専務は話を続ける。
「お前はタイ人だからある程度は仕方が無いと思っていたがあまり事が大きくなると俺もかばいきれない。」
やはりそう来たか。
当たり前にこれまで俺が資産を作ってきた経緯を説明すれば済むと思う。
しかしこれまで何度も俺を全面的に信頼してくれた村上さんだったが、今回の件で俺への信頼が揺らいでいるに違いない。
そんな状態でようやく勝ち取ったタイの工場長の地位が保てるだろうか
俺は覚悟を決めて俺の秘密を話すことに決めた。
「村上さん。
何言ってるんですか。
あなたは前から気付いているんでしょ?
俺がタイ人では無いことに。」
驚く村上専務に俺は話を続ける。
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俺が入社前に面接をしてくれたのは村上さんですよね。
面接で俺の日本語を聞いてどう思いました?
考えてみてください。こんなに流暢に日本語を話すタイ人って不自然じゃないですか?
日本に10か月しか留学していないのに外国人が日本人と同じレベルで日本語を操れる訳はありません。
私はタイ人ではありません。
もちろん戸籍上はタイ人で間違いありません。実家の両親も実の両親です。
正確には日本人だったと言った方が良いですね。
私は前世の日本人の記憶を完全な形で持ったまま生まれ変わったタイ人なのです。
日本語能力だけでなく前世の記憶もそのままに。
この会社の。
俺は生まれ変わっただけでなく、生まれ変わるときに時間も遡っているんです。
俺は前世と同じ時間軸で生まれ変わって同じ時間で人生をやり直しているんです。タイ人になって。
だから俺は未来を知っている。
1995年の超円高も。
1997年のタイバーツ危機も。
光電子の不具合に始まる千葉工場の不祥事も知っていました。
未来を知っている俺はお金なんてその気になればいくらでも稼げるんです。
だから会社から1バーツも横領する必要なんて俺にはありません。
俺が所有しているささやかな資産は競馬や為替で得た資金を不動産で運用して増えただけなんです。
俺の今の目的は金などではありません。
もちろん不自由なく暮らせるお金が必要なのでそれなりに資産を作りました。
俺の今世の目的は、前世で果たせなかったタイの工場長になることでした。
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「アット。それでお前の前世というのは誰なんだ・・・」
「タイ工場の計装グループリーダー【ユウイチ】です。ヤツは俺の前世です。
前世の俺はタイの工場長になりたくて仕方が無かった。
たとえどんな手段を使っても。
今回の告発は俺をタイの工場長から引きずり下ろすためです。
ヤツは馬鹿なので俺を工場長から引きずり下ろせば次の工場長になれると思っています。」
「お前の話は分かった。
信じられん話だが、納得できる事は多い。
それでお前は俺にこんな話までしてどうしたいんだ?」
「2週間【ユウイチ】をインドに出張させてもらえませんか?
その間にヤツの不正を暴きます。
【ユウイチ】には今回の報いを受けてもらおう。
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