帰国したタイの変な日本人

バービアを愛した中年デブの元タイ沈没者がタイを想ってタイを舞台にした小説のようなものを書いてます。

腹上死したら生まれ変わってタイ人に 1話

同僚や部下を嫌な気持ちにさせながらタイで駐在員として活躍していた主人公が泥酔してロリゴーゴー嬢とセックスの最中に昇天してしまう。
気が付いたらタイ人男子中学生に生まれ変わっていたお話。
  
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「ウチから仕事がほしのだったらこの仕様書に対する見積もり提出と一緒に見積金額の2.5%を俺の個人口座に振り込んで。
今回採用されなくても次回も見積り参加できるように声をかけてあげるから。」


「え? 仕事をいただける訳じゃないのに見積もり提出と同時に振り込みですか? それはいくらなんでも・・・・」
 
 
「次期工場長候補の俺の印象を良くしてた方が良いと思うよ。詳しい話は振込の後で。じゃあ俺は忙しいから。」
 
 
 
新しくウチの会社に下請け参入したいというソフト会社の社長が営業に来た。
まず俺に誠意を見せろと言ったのだが、実際に仕事がもらえないとリベートが支払えないと食い下がってきた。

そんなこと言われても俺のルールだから仕方ない。
お金が払えないなら仕事の話も無いよ。

 
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第1話 タイ工場のドン



俺(ユウイチ)は生産機械を製造販売する会社【TKテクニカ】に勤める43歳。
29歳の時に東南アジアのタイに駐在員として赴任して以来15年間ずっとタイに赴任したまま。

俺はタイ工場で「計装グループリーダー」という役職。
機械を制御するプログラムや、センサー、各種測定器の設計・見積もり・調達・取付・メンテナンスを担当する部署のトップだった。

 
 
主に製造業であるお客様から生産機械の販売・設計・製作を行う機械メーカー【TKテクニカ】の製造部では機械制御や測定器などの電気系統を担当する「計装グループ」よりも機械本体の設計を行う「設計グループ」や機械の製作に関わる「機械グループ」に所属する者が会社の本流と呼ばれ、人気もある花形部署と言われる。
 
機械の設計・製作にかかわる技術者は大学の機械工学科を卒業した者たち。

この【TKテクニカ】で出世するのも機械工学科卒で「設計」か「機械」などの花形部署出身者がほとんど。
タイ工場の工場長兼タイ現地法人の社長は慣例として機械工学科卒で製造部の機械グループ出身者が就任している。
 
本社でも計装出身者の取締役は居ないし、本社製造本部長や主要工場の工場長は機械グループか設計グループ出身者であった。

 

電気制御無しには動く機械は無い時代なのに電気工学科卒で構成される「計装グループ」はマイナー部署であり、同じ会社なのに「機械グループ」の下請け的な弱い立場であった。
 
機械>事務>電気というヒエラルキーが存在する会社の底辺と言える「計装グループ」であるが、ここタイ工場に限ってはユウイチの15年間の努力によって強い立場を確保していた。
 

日本の工場では営業部員が持ち帰ってきたお客様からの要求事項を見て、たとえそれが技術的に困難であろうとも機械グループ・計装グループは協力して即座に実現に向けて検討する。

しかしユウイチは自分が気に入らない営業部員がお客様から持ち帰って来た案件についてあれこれと理由を並べ立てて協力を拒否する。
毎日16:00から始まる受注案件審査会議で気に入らない営業部員からの案件提示に対して
 
『そんな動作はタイの工場法の騒音規定に収まらないから出来ない』

『そんな仕様はタイの下請けで対応出来ない。日本国内の業者に外注したらいくらかかるか知ってるのか!』
 
 
などとタイの労働法、工場法、建築基準法、安全衛生法、タイの下請け事情に精通しているかのようなユウイチの指摘に他の日本人は太刀打ちできない。
 
自動制御プログラム無しでは最近の生産機械は成り立たないため、営業部員や製造部の機械グループ員は受注案件審査会議の前にユウイチにお伺いを立てるようになった。

職務怠慢とも言える非協力的な行為。
サラリーマンとして普通なら許されない行為だと思うが、ユウイチは巧みな拒否理由に正面から反論できる日本人は居なかった。

他の日本人スタッフは何事にもユウイチの意向を伺うようになりタイ工場での影響力を強めていった。
 
 
 
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ユウイチは計装グループの地位向上だけでなく、タイに駐在した15年の間に下請け業者からのリベート授受の体制も確立させていた。

機械の動作を制御するプログラムは年々複雑化しているので社内では対応できなくなっていた。

プログラムの構築はプログラミング会社に外注しているのだが、外注先の日系のプログラミング会社が受注する際には請負金額の1~3%をユウイチキックバックしなければ仕事をもらえないシステムが出来上がっている。



プログラムだけでなく単価の高い計装機器を取り扱っている商社やメーカーも同じである。


ユウイチの所属するタイ工場での計装関係の外注金額は年間1億バーツに上る。

そのためユウイチのポケットに入るリベート金額は年間数百万バーツにも達していた。
 
 
昨今の日本本社からの経費節減圧力によりタイ工場内の日本人歓送迎会や日本人だけの忘年会・新年会を開催するにも会社として支出出来なくなっていた。
 
しかしユウイチがプールしている資金により会費を徴収しなくても宴会が出来るため日本人駐在員から感謝されている。
 
 
 
 
 
こうしたユウイチの【内向き】努力によって発言力・資金力共にタイ現地法人のドンと言われるほどの地位を築き上げた。
 


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タイ工場のドンと言われるユウイチではあるが、自分より格上のタイ工場長兼社長やタイの製造部長、日本本社の管理職などに対しては必要以上に媚びて従順になる。



ユウイチの毎朝の日課はタイ工場長と製造部長が社用車で自宅を出発する時間にそれぞれの好みのコーヒーをスターバックスで買って、工場長や製造部長の乗る車の後部座席に置く活動である。
 
特に次期工場長と目されている製造部長にはべったりで、どこに行くにもコバンザメのように付き従っている。

製造部長が気に入らない事を察知して率先してタイ人スタッフを罵倒する役を買って出る。
尿病気味の製造部長に合わせて自分も糖質制限を始めたりと「製造部長が工場長に昇格した際の後釜として自分を製造部長に!」というアピールが尋常では無かった。
 


部下・同僚にはタイの法律知識を駆使してプレッシャーを。
下請け会社にはリベートを要求を。
上司には媚びを。


周囲からは嫌われつつもユウイチはタイ工場の裏のドンとしての地位を固めていた。


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