帰国したタイの変な日本人

バービアを愛した中年デブの元タイ沈没者がタイを想ってタイを舞台にした小説のようなものを書いてます。

腹上死して生まれ変わってタイ人に63話

機械製造会社の駐在員ユウイチは泥酔しながらも若いゴーゴー嬢をホテルに連れ込み行為の最中に突然死してしまう。

死んだはずのユウイチは目覚めたとき、タイ人中学生の【アット】になっていた。
コンケン大学を卒業したアットは前世で勤務していた会社に入社する。

第1話はこちらから
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第63話 通訳の山口さん 2
 
 
 

毎週火・木の2回、夕方の6時ごろから始まる会議がある。

営業会議とか経営会議などと呼ばれているが、社長が外出していたり来客があれば開始が遅くなるので社長が戻ってくるまで長時間待たされた上に会議が終わるのが22時以降になることもある。


会議で話される内容も経営会議というよりは日本本社にどんな報告をするとか、この件は隠そうとかといった内容が多かった。
売り上げをあげるよりも日本本社対策についての話し合いである。


前世の俺も計装グループのリーダーになってからこの会議に参加するようになったが、工場の現場で工員が機械で指を切るケガをしてそれを日本本社に報告するかどうか遅くまで話し合ったものだ。

傷口を2針縫ったケガであったが、極力隠したい製造部長と後で見つかったことを心配して報告したい社長と長時間議論していたよな。



生まれ変わって通訳として参加している俺は、長時間つまらない内容をタイ人幹部に訳すのが面倒なので火曜と木曜が憂鬱だった。


新しい通訳の山口さんが入ってからこの会議から解放されたと思ったが、タイ人マネージャーから通訳の言っていることが理解できないと苦情があったらしい。



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書記と言う名目で会議に参加した。

会議は次の四半期の営業目標をいくらで日本本社に提出するか社長と村上製造部長の議論から始まった。

出来るだけ目標を高く設定したい社長と、実現可能なレベルで設定すべきという村上部長が10分以上議論しているが、山口さんは一向にタイ人マネージャーに説明しない。


タイ人マネージャーのマノーさんは近くにいた俺に説明を促したので小声で説明する。

「来季の営業目標を6億バーツに設定したい社長と、実現できそうな4億を目標にしたい村上さんが議論してます。」


一向に通訳の仕事をしない山口さんにしびれを切らした梶山さんは山口さんにタイ語での説明を促した。


『社長と村上さんが話しをしています。』


たったこれだけ。
 
二人が話をしているのは言葉を理解しなくても見てわかる。
 
もしかしてコイツはタイ語があまり出来ないのか?
もしくは馬鹿なのか?



今日参加しているタイ人マネージャーの2人の発言は英語だった。
 
過去2回の会議で「設計の人員が少ないから現場は設計待ちの状態が続いています。設計の人員を増やすか設計を外部に委託するかしてほしい」という趣旨の発言を【人が少ないと言ってます】の ひと言で済まされて以降、英語で発言するようになったのだ。


その後、タイ人マネージャーのマノーさんはタイ語で自分の意見を言った後で

「アット訳せ!」

と俺が指名された。
山口さんに遠慮しつつも来期のマノーさんの売り上げ目標についての見解を日本語で説明した。



会議終了後、山口さんに「今日は悪かったね」と声をかけられた。

担当の通訳は山口さんだったのだが、最後は俺が出しゃばったような形になってしまったが、彼は怒ってはいないようだった。


別れ際に 

「今日ガソリン代が無いから1000バーツ貸して」

と言われたので、少し罪悪感があったので貸してあげた。



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会議の翌日。
山口さんは出勤してこなかった。


梶山さんが山口さんに支給している携帯電話にかけても出ないらしい。


嫌な予感がする。