帰国したタイの変な日本人

バービアを愛した中年デブの元タイ沈没者がタイを想ってタイを舞台にした小説のようなものを書いてます。

腹上死して生まれ変わってタイ人に123話

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第123話 復讐(最終回)



2015年7月。
ユウイチ】が無事に福井県にある下請け会社の営業部長として出向したことを確認。
俺は引き続きタイ工場長兼現地法人代表を任されている。

 
 
ユウイチ】のように俺に対して反抗的な駐在員もいなくなり、タイの洪水以降は俺より年上のタイ人従業員やマネジャー達もすっかり従順だ。

これから10年間は昇進や転勤を断り続けてタイ工場長として居座ってやる。
 


給料以外に賃貸収入が毎月20万バーツある。
早めに引退して50歳からはナムワーンと二人で海外旅行三昧しよう。
 

子供はもう無理だろうから引退生活をふたりで楽しみたい。

 

 

帰りの車の後部座席でそう考えていた。
 


◇◇◇◇◇◇◇◇
 
 

夜遅くに自宅に到着。
車を降りて門を開け、庭を通って玄関に向かおうとした 

その時。


突然庭の茂みから黒い大きなものが俺に向かって来る。


とっさに避けようと体をよじるが間に合わない。

黒いものが俺にぶつかる。
その瞬間に腹に感じる冷たい感触。

何が起こったか分からない。

腹の冷たい感触が熱い痛みに変化し、我に返った。


刃物で刺された??

とりあえず逃げよう。


一度離れた黒いかたまりが再び俺に向かってきた。


慌てて逃げる俺の背中に再び冷たい感触が走る。


「アッタポン死ね!」


背中からかけられた声。

聞いたことのある声だ。

・・・黒いかたまりは【ユウイチ】だろう。

ユウイチ】はもう一度俺に死ねと捨て台詞のように呟いてすぐに去っていった。



最初は冷たかった背中とお腹が焼けるように熱くなってきた。

必死に刺された腹を押さえるが、血がどんどん流れ出ている。
暗くてよく見えないがたぶんそこら中が血まみれだと思う。


「本気で殺しに来るのかよ!」


思えば俺は【ユウイチ】に対して少しやりすぎたと思う。
部下に辞令を渡させてしかもビデオ撮影もさせたしな。

それにしても日本人駐在員のくせにタイ人の俺を本当に殺しに来るとは。


やばい。病院に行かなきゃ。

起き上がれもしない。


意識が朦朧としてきた。


とりあえずナムワーンを呼ぼう。

でも声が出ない。



あいつは旦那が帰ってきたのに出迎えもしないなあ。

ナムワーン出てこいよ。

 

 
それにしてもナムワーンには悪いことをしたな。

新婚なのに家を建てるのに2年もかかったし、その後俺はひとりでインドに転勤だし。


ヌーイと浮気して悪かった。
後でもう一回謝ろう。


遅いなあ。
ナムワーンが出てこない。

 
 
たぶん俺・・・もう死ぬわ。



どうせ死ぬならこんな冷たい床の上じゃなくてナムワーンの腹の上で死にたかったな。


でも腹の上で死んだらナムワーンに迷惑か。


 
ナムワーンだったら許してくれるだろうな・・・


 
あいつは俺には優しいから・・・


 
 
ナムワーン。生まれ変わったらまた・・・・・
 
 
 
 
 
 
目の前に真っ白な世界が広がって行く。


 
 
 
 
 
 
 
 
・・・・・・・そろそろ意識が無くなって行くかと思ったが、

 
 
 
思ったより長い。

 
 

どこかに吸い込まれるような感覚の後で意識がなくなった。
 
 
 
 
&‘*&$#E! &‘*&$#E!!!
 
 
 
 
何かに呼ばれて目が覚めた。
 
 
また生まれ変わったのか?
 
 
目の前のおばさんは黒い。真っ黒だ。
 
しかもカレー臭い。
 
 
 
これはもしかして・・・・
 
 
 
【完】




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あとがき


今回は予定よりも長くなってしまいました。
にもかかわらず長期間にわたって読んでいただいてありがとうございます。


この主人公である【ユウイチ】は実在の人物をモデルにしており、彼は今も元気に部下や同僚に嫌な気持ちをさせながらタイで働いています。

そんな【ユウイチ】に何度も不快な思いをさせられたので、主人公の【アット】には多くの困難を与えまくろうと思って書き始めました。

しかし途中で【アット】に愛着が出てしまって何故かサクセスストーリーっぽくなってしまいました。

モデルとなった【ユウイチ】がインドに転勤しますように。
 
 
 
 
 
タイとバービアを想いながらエッセイのようなものを書くつもりだったブログでしたが、いつのまにか小説のようなものになってしまいました。

これまでタイで出会った変な人たちをモデルにあと何人か書いてみたいと思います。
 
 
 
次回作
【不動戦士タカハシ】
 
宜しくお願いいたします。
 
 
わんわん