帰国したタイの変な日本人

バービアを愛した中年デブの元タイ沈没者がタイを想ってタイを舞台にした小説のようなものを書いてます。

腹上死して生まれ変わってタイ人に95話

「村上部長。私はもうタイに戻れないのでしょうか?」



「俺から本社に頼んでおくよ。後任の加藤さんにもしっかり引き継いでおくから心配するな。」





第1話はこちらから
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■




第95話 製造本部長命令



2005年5月。
村上技術部長はタイ工場長兼現地法人の社長として転勤していった。
俺を置いて。


村上部長はタイの社長になったら俺も一緒にタイに連れて行くと約束してくれたことがある。
しかし現実はこれからも俺は本社技術部勤務のまま。

前世の俺が10年以上タイに居続けたように、今の世界でも見えない力が俺を日本に縛り付けているのだろうか?


タイの社長になる村上さんの権限をもってしても俺をタイに連れて行けないほどの【見えない何かの力】が働いているなら俺は二度とタイに帰れない運命なのか?




新入社員の頃から俺に良くしてくれた村上部長はいなくなった。

しかし新しく俺に友達が出来た。


すごい年上のオールバックのじじいの友達が。



「アット! 専務がすぐ来いってさ。 そんな仕事放っておいてすぐ行け!」


「今は資料作成中なので手が離せません。 部長が代わりに行ってください。」


「馬鹿かお前! 俺をクビにする気か!
どこの世界に専務の呼び出しを断る平社員がおるんじゃ! 
すぐ行け!」


「はーい」


今年の4月から千葉工場長の酒井常務は千葉工場長在任のまま製造本部長を兼任し、専務取締役に昇格した。
専務になってから毎日午後には本社に居ることが多くなった。

どうして俺が知っているかって?

それは3時のティータイムに毎日のように呼ばれるから。

この4月から新しく技術部長になった加藤部長をメッセンジャーにして専務は俺を専務室に呼ぶ。




豪華な専務室の前室の受付にいる美人の秘書さんのところに向かった。
秘書さんは「なにお前は専務を待たせてんだ?」と少し顔を引きつらせながらも、笑顔で専務室に案内してくれた。


「アット! 遅かったな! 待ったぞ!」


毎日のように3時の休憩時間に酒井常務 改め酒井専務は俺をこの部屋に呼び、コーヒーを飲みながら雑談をする。

こんな俺と話をして何が楽しいのだろうか?



世間話と言っても俺のような日本語が得意なだけのしがないタイ人と上場企業の役員とでは住む世界が違いすぎて話しがかみ合わない。

コーヒーを飲みながら沈黙するのも変なので俺は過去に付き合った女性の話を専務に少しづつするようになった。

これが酒井専務にウケる。


今月に入ってからはずっと俺の女性経験の話である。
中学生の時の初体験相手のオイウェンから始まり、高等部でのモッド、大学から就職後も同棲していたナムワーン、最後にヌーイ。


酒井専務は俺が6年間同棲していたナムワーンの話を聞いて彼女のファンになったようだ。
ヌーイと出会ってからナムワーンと別れたくだりになると怒りながら突っ込みを何度も入れる。

そして最後ヌーイに一矢報いてから日本に研修に来た場面になって


「おいアット! お前はタイに戻ってナムワーンに謝ってやり直せ!  

命令だ! 

ナムワーンと結婚しろ!

するならワシはタイに行って仲人をしてやる!」




「ですが専務。私はずっと日本勤務ですよね。頼みの村上部長もタイに連れて行ってくれないですし。」


「分かった。お前に1週間タイ出張を命じる。それでナムワーンに謝ってこい!」


「ナムワーンに彼氏がいたらどうすんですか!すでにもう他の男と結婚してるかもしれないじゃないですか!」


「ナムワーンはそんな女じゃない!
それにワシはナムワーンに謝ってこいと言ったんだ!
ワシから加藤と村上に言っとく!  すぐ行け!」



【製造本部長命令】ナムワーンに謝りにタイに行け 


技術部は製造本部の1部署なので製造本部長は加藤技術部長のさらに上司になる。
製造本部長命令が発動されて俺のタイ出張が決まった。

目的はナムワーンに謝りに。


なんじゃそりゃ。



第1話はこちらから