帰国したタイの変な日本人

バービアを愛した中年デブの元タイ沈没者がタイを想ってタイを舞台にした小説のようなものを書いてます。

腹上死して生まれ変わってタイ人に99話

「おい!お前見ない奴だな! 何さぼってるんだ?クビにするぞ!」


「ソーリー ボス!」


「チッ!」 

(見かけないタイ人だな タイ人のくせに生意気に作業服の下にネクタイなんかしやがって)


第1話はこちらから
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第99話 ユウイチとの邂逅




俺の嫌な予感が的中し、この世界に今の俺【アット】以外に前世の俺である【ユウイチ】が存在していた。

明らかにタイ人を馬鹿にする態度は正に前世の俺だった。
実際に自分がタイ人となって見下されてみると・・・我ながら本当に嫌なヤツだと思う。



今の俺【アット】はタイ人ではあるが【ユウイチ】と同じ日本採用の正社員であり初級幹部の1級である。
ユウイチ】とは全くの同格な上に俺には酒井専務という後ろ盾もある。


ユウイチ】にクビにされると言うよりも逆にヤツをクビに出来るぐらい力のある今の俺だが、恨まれると厄介なので素直に謝っておいた。


「ソーリー ボス!」


もちろん【ボス】とはユウイチに対して。
うちの会社のタイ人の隠語で【ボス】とは気に入らないヤツという意味である。
嫌われている日本人はタイ人スタッフから【ボス】と呼ばれ、尊敬されたり好かれている日本人は「ムラカミさん」とか「ユウイチさん」と呼ぶ。


そういえば前世では俺もよく【ボス】と呼ばれていたなぁ。
死ぬまで【ボス】に込められた意味に気がつかなかったけど。


「チッ!」


機嫌が悪そうに舌打ちして【ユウイチ】は去っていった。
嫌な感じのヤツだ。
偉そうな態度もさることながら、30歳を超えて坊ちゃん刈りというのは無いと思う。

40歳を超えても結婚出来なかったのは髪形が原因だと言っても過言ではないと思う。

ガタイが大きいのでスポーツ刈りにでもして爽やかな振る舞いをしていれば結婚出来たはずだ。

あと謙虚にならなければならないと思う。

タイ転勤して来て、周囲のタイ人に比べて偉くなったような錯覚があると思うが、タイ人に対してもう少し謙虚になるべきだ。


世の中には工場でブラブラしているタイ人が実は本社の役員と仲が良かったということもあるのだ。



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「帰ったら酒井専務によろしくと言っておいてくれ」


結局今回の俺のタイ出張理由について、村上工場長は最後まで俺に何も聞かなかった。

最後に村上工場長は俺に言う。


「アットすまんな。(タイに呼べなくて)」


はい。言わなくてもわかります。
俺をタイに呼べない理由があって、村上工場長でもどうにもならないことがあるのでしょう。

村上工場長の言葉からアットはしばらくタイへの転勤は無いと確信した。



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日本に戻った俺は酒井専務に今回のタイ出張について報告する。

専務室でコーヒーを飲みながら。


ナムワーンと再び、よりを戻した事を報告すると酒井専務は喜んでくれた。
ナムワーンへのプロポーズへの合意条件が【俺がタイに戻ること】だと説明した時には「ウ~ン」と難しい顔をした。

村上工場長だけでなく専務取締役ですら俺をタイに戻すことが出来ないなんて相当強力な『ユウイチと反発する運命』が働いているのだろうか?



タイへの帰任には言葉を濁した酒井専務であったが、今晩祝いだと言う事で、晩飯に連れてってやろうと言われた。
その日の夕方、専務の専用車に乗せられて一緒に食事に向かった。




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