腹上死して生まれ変わってタイ人に115話
2011年4月。
2年振りにタイ工場のナンバーツーである製造部長としてタイに帰任した。
俺は着任の挨拶をそこそこにタイ人幹部達に指示する。
「購買は直ちにタイにあるガソリンもしくはジーゼルエンジン式の発電機の新品および中古品を出来るだけ多く探してくれ。
5KVAの小さいサイズの発電機が100台、50KVAが20台、100~300KVAの大型が5台必要だ。
発電機の容量に見合ったケーブルと漏電遮断器の発注も頼む。」
*KVA:キロボルトアンペア(発電機の出力単位)
「マネージャーは全社員に伝えてくれ。
ソンクラーン休みに田舎に帰ったら電気・機械のメンテナンスが出来る作業員を連れてくること。
日当は500バーツ出す。」
「工場の近くの空き地を借りてレイバーキャンプ(組み立て式簡易宿舎)を設営しろ。
人数は200人規模。期間は10か月。
建設会社に頼んだら電気も水もトイレもすべて段取りしてくれるはずだ。」
俺はタイ着任早々に本業の機械製造とは関係の無い指示をスタッフにしたのは2011年の7月に発生するバンコク北部の大洪水に対応するため。
大人ふたりで持ち運べる5KVAの小型の発電機は洪水によって電力供給が止まった場所での復旧作業の工具や設備を動かすため。
50KVA以上の発電機はお客様の生産機械を稼働させるため。
田舎に帰る従業員に集めさせた電気や機械関係の作業員は洪水復旧作業に従事させる。
集めた作業員は空き地に建てる予定のほったて小屋に住まわせる。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「おいおいおい。いつからウチは発電機屋になったんだ?
大量の発電機が邪魔で仕事が出来んぞ? ウチの製造部長は頭がおかしくなったか?」
俺に聞こえるようにユウイチが嫌味を言って来た。
こいつはタイ人の俺が自分より上位の製造部長になった事が相当気に入らない。
確かに前世の俺だったらタイ人が上司なのは気に入らないだろう。
小さな嫌がらせをしてくるユウイチ。忙しい俺はいちいち反応している暇はない。
ただでさえ100名以上の増員した作業員の給料支払いや、過剰に購入したと思われる発電機に対して俺への風当たりが強くなっている。
それにもめげず、俺はさらなる指示をした。
「ミネラルウォーター1万本とインスタントラーメンを1万食分を購入してくれ。置く場所はもう無いから倉庫を借りろ。」
マネージャー会議では俺の暴挙だと言ってみんなが反対するようになった。
購買や経理のマネージャーもそんなものを買っても税務署が認める経費にならない。
会社として大量にそんなもの買えないと言う。
仕方が無いので俺は自己資金を100万バーツ渡してミネラルウォーターとインスタントラーメンを買わせた。
さらに小型の強化プラスチック製のボートも買おうと思ったが、反対されて買えないだろう。
仕方が無いから自費で2隻のボートを購入。エンジン付きが買いたかったが仕方が無い。
周囲からついに俺の頭がおかしくなったと思われながら運命の2011年の7月を迎えた。