帰国したタイの変な日本人

バービアを愛した中年デブの元タイ沈没者がタイを想ってタイを舞台にした小説のようなものを書いてます。

腹上死して生まれ変わってタイ人に105話

「村上本部長! 私のつかんだ情報ですと4か月以内に陸軍内の反タクシングループによる軍事クーデターが発生する可能性があります。」


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第105話 結婚式

 
 
 
2006年5月。
2006年9月に起きる軍事クーデターの情報を村上本部長に伝えた。

タイ工場の工場長である村上工場長はタイ工場長だけでなく東南アジア統括本部長も兼務して取締役に昇格している。
だから村上工場長ではなく村上本部長と呼ぶ。


2006年9月の軍事クーデターとは、当時のタクシン首相の外遊中に「ソンティ」大将率いる陸軍が蜂起し軍事政権を打ち立てる事件だ。
バンコク戒厳令が発令し1週間ほど街に兵士や戦車があふれる。

 
 
「クーデター!!! それでタイはどうなるんだは?」


「タクシン派に協力者が多いと言っても純粋な軍事力はありません。
なのでクーデターが発生したら一方的に軍部が中枢部分を占拠する形になると思います。
問題はタクシン派による反対デモが発生して戦闘に発展するかどうかです。」


「それで軍事クーデターへの対策は???」


バンコクの機能が長期間麻痺する恐れがあるのでチョンブリ工場に本社移転すべきです。」
 
 
「うーん。それは・・・難しいな。 チョンブリ工場は立ち上げたばかりでそれどころでは無い。他の策を考えてくれ。」
 
 
数年後に発生する【暗黒の土曜日事件】とか洪水のことを考えるとチョンブリーに移転した方が良いと思う。
まだ発生してもいない軍事クーデターを恐れて本社移転には踏み切れないよね。
 

俺がチョンブリーに本社移転を願うのは、新居のことがあるから。
バンコク近郊は土地が高く、渋滞もひどいのでこの際チョンブリーに家を建てたいと思っているからだ。

 
まあ今回は村上本部長にクーデターのことで注意喚起すれば十分だろう。

忙しい中であったがこの際に出来るだけ対策をたてようと、工場の生産管理情報のバックアップ作成や工場の従業員の安否確認態勢を整備することにした。


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2006年6月11日。
日本本社の酒井社長夫婦を迎えて結婚式はバンコクのシャングリラホテルで盛大に行われた。

酒井社長が参加するので村上本部長をはじめ、日本人社員は全員出席。
タイでの取引先の会社からも日本人が多く出席。
タイ人従業員や取引先、協力業者なども参加したので総勢300人を超える参加者となった。
 
 
主賓挨拶では新郎の事をべた褒めするのは「お決まり」ではある。
 
なのでせいぜい
「アット君はわが社期待の星です!」
ぐらいのことは言われると予想していた。
 
 
 
しかし。
 
 
「自分が社長になれたのはアット君のおかげです! 私はタイの方角に足を向けて寝られません!」


酒井社長のスピーチは俺を褒めるというより「事実無根」な褒め殺しだと思う。

もしかしてここは「笑うところ」かと思って笑ってしまった。
 
しかし参加者は神妙に聞き入っている。
ひとりだけ笑ってしまった俺は・・・恥ずかしかった。


続く村上本部長のスピーチもひどかった。

 
「自分が取締役になれたのも酒井社長とアット君のおかげです。」


酒井社長の「ボケ」がウケなかったからといって、そこは「かぶせる」必要は無かったと思う。
 
当然誰もウケない。
 
この二人は大学の先輩後輩で仲が良い。
事前の打ち合わせでこんな「ネタ」をスピーチに仕込んだので、その後の会場の雰囲気がおかしくなってしまった。
 
 

酒井社長に気軽にお酌をしながら「シャチョウさーん!」と気軽に声をかけるナムワーンは来賓の酒井社長がグループ総勢1万人の上場企業のトップだとは理解していない。

日本語通訳でもあるナムワーンは日本語で酒井社長夫妻と楽しそうに話している。
酒井社長を呼ぶときの「シャチョウさーん」という呼び方。

厳密にいうと違うと思う。
呼び方自体は間違ってはない。
ただ発音だけじゃ無く何か根本的に違うと思う。
 
 
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日本から酒井社長を招いての盛大な結婚式は無事終了した。
シャングリラホテルは高いので相当の赤字を覚悟したが、酒井社長が100万円も包んでくれたので、収支はそこそこの黒字となった。

俺なんかの結婚式に大金を包むなんて上場企業の社長も大変だ。