腹上死して生まれ変わってタイ人に100話
「飯田社長。先生の都合でキャンセルになった今日の会食ですが、紹介したい男がいるので予定通りお越しいただけるでしょうか?」
「酒井さんが紹介なんて珍しいですね。分かりました。参りましょう。」
第1話はこちらから
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
第100話 高級料亭にて
ナムワーンと復縁した報告をした日に酒井専務に誘われて食事に向かった。
専務の車で連れていかれたのが銀座の一等地の中にある武家屋敷のような塀に囲まれた料亭であった。
出迎えた女将さんのような人に案内され数寄屋門をくぐる。
母屋には入らず、庭門から雰囲気の良い中庭を案内され、茶室のような離れに案内された。
離れの中の座敷には膳が3つ用意されていた。
上座に1つ。下座に2つ。
酒井専務は当然上座に座ると思いきや・・・俺の隣の下座にならんで座った。
上座に誰が来るのだろうか?
酒井専務ですら下座に座る相手は?と想像するだけでぞっとする。
恐る恐る専務に聞いてみると・・・
「そろそろお前を社長に紹介しようと思ってな」
社長ってもしかして飯田社長?
飯田社長は写真やテレビの経済ニュースでしか見たことは無いが、社長就任以降は業績をV字回復させた辣腕社長と言われている。
社外では評価が高いが、社内では大量のリストラを断行したため、冷血なコストカッターと恐れられている人だ。
そんな強面の辣腕社長と俺なんかが一緒にメシを食う心の準備などしてなかった・・・。
いや。既に隣の酒井専務ですら俺なんかが一緒にメシを食って良いお方では無いはずだ。
毎日のように「お茶」に誘われるので、すっかり麻痺してしまっているだけだ。
酒井専務は厳しそうな顔の割には寛容なところがあるが、飯田社長は温和な外見と違って冷酷非情と言われている。
2001年の大規模なリストラを断行したのがこの人だと言われている。
俺なんかは不用意な一言でクビになるかもしれない。
30分ほど酒井専務と一緒にお茶を飲みながら緊張とともに社長を待っていた。
いつになく胸騒ぎがした俺は心の中で「来るな」と念じていると、酒井専務の携帯電話が鳴った。
「アット。悪いが一人で待ってろ。酒は飲んでて良いから。」
酒井専務は部屋を出て行ってしまった。
ひとりで酒を飲んでも仕方が無いので、付け出しを食べながらお茶を飲んで待っていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
待つこと2時間。
ようやく戻ってきた酒井専務は上座に座り、日本酒をおれに注ぎながら言う。
「アット君今日はありがとう。まあ飲んでくれ。」
「ありがとう」? 待ってくれてありがとうという意味なのか?
その日、料亭に向かった飯田社長は途中で体調が悪くなりそのまま入院したらしい。
知らせを聞いて急いで病院に向かった酒井専務は飯田社長が重病でそのまま入院することを知った。
もしかしてさっき俺が「飯田社長来るな」と念じたから飯田社長の体調が悪くなったのか?
まさかそんなことは・・・・無いと思う。
折角の高級料亭の料理の味をあまり味わえずにその日の会食は終わった。
■■■■■■■■■■■■
「いやー ヤツを近くに置いておくと【何か】やってくれると思っていたが、まさかこうなるとはなぁ。
そばに置いておいて正解だった。」
「まさかオカルトじゃあるまいし・・・・でも・・・まさか彼が?」
「いくら何でもタイミングが良すぎるだろ?」
「たいして年も違わない飯田さんがいる限りワシは無理だと諦めていたがなあ。
次の取締役会までに根回しがうまくいったら村上の役員昇格を提案してやる。」
「ありがとうございます。それで、アットはタイに戻してもらえますか?」
「今が正念場なんだ、もうしばらく手元に置いておく」
第1話はこちらから