腹上死して生まれ変わってタイ人に96話
「もしもし? ナムワーン? 俺アット。
久しぶり! 元気?
来週タイに出張するから会えない?
着いたら電話するから! じゃあね!」
「え? 本当にアット? 来週? え? 何?」
第1話はこちらから
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
第96話 タイ出張の準備
2005年5月。
ナムワーンに謝りに行くと言う訳の分からない理由でタイに出張になった。
アットの上司である加藤技術部長は自分の頭ごなしで製造本部長から指示されたアットの出張の理由を知らない。
前任の村上部長からは「アットを自由に行動させた方が会社の利益になるから」との申し送りを受けていたし、酒井専務からの直接の命令なので深く考えなかった。
アットは会社のナンバーツーである酒井専務のお気に入りだし、出張のたびに大問題になるような不具合を未然に防いだ実績もある。
恐らく酒井専務から何か密命を受けてタイに行くのであろうと思いすぐさま出張申請にハンコを押した。
まさか元の彼女に謝りに行くのが出張の目的だと知らずに。
◇◇◇◇◇◇◇◇
タイ出張に向けて準備をする。
まずはナムワーンにアポ取りをした。
携帯電話番号は以前から変わっていないようだった。
ナムワーンは電話の向こうで驚いていたようだが、タイで間違いなく会えるめどが立った。
行方不明で会えなかったら酒井専務に怒られるとヒヤヒヤした。
次はタイ工場のみんなへのお土産。
そもそもタイ法人の現地採用の地元民である俺が、いつの間にか本社採用になったことに嫉妬されているはずだ。
ここは俺が増やした所得を少しでもみんなに還元して嫉妬や批判を和らげなければならない。
俺は定番お土産の白い恋人の24枚入りの箱を45個。段ボールに3箱分を購入し、先行してタイに航空貨物で送った。
お世話になった先輩社員用には桐箱入りのウイスキー山崎を1ダース。
購入費用だけでなくタイの通関時の関税も運送会社に払い、総額40万円になった。
これもいつの日かタイに戻った時のための根回し。
必ず活きてくるはず。
次はタイにある不動産屋に連絡。
200万バーツ以内で買えるコンドミニアムの物件紹介を依頼した。
この1年半で日本で貯めた貯金が300万円以上。
さらに、タイで貸している物件の賃貸収入も100万バーツ以上貯まっている。
こうして準備を整えて2年振りにアットはタイに向かう。
■■■■■■■■■■■■
バンコクに到着したアットはまずはタイ工場に向かう事にした。
「酒井専務から聞いている。何も言わないし何も言わせないから今回はお前の好きに行動しろ。」
タイ工場長兼タイ法人社長の村上工場長は酒井専務からどこまで聞いているのだろうか。
まさかナムワーンに謝るためだけにタイに来たことを知ってるのか?
それともタイで発生するトラブルを未然に防ぐとでも思っているのだろうか。
どちらはは分からないが、今回はすべて俺の好きにさせてくれるそうだ。
1週間の出張期間。
ナムワーンに会うのは3日目と決まった。
とりあえず今のところは何処にも行く予定が無いためタイ工場に出勤してみんなに挨拶することにした。
まずは設計の時にお世話になったノックさん。
今はまだ設計チーフにもなっていないが、10年後にはタイ人トップになる人だ。
「おぅ アットか! お前はずっと日本のままらしいな?」
ノックさんに図らずも日本採用になってしまった経緯を簡単に説明しつつ桐の箱に入った『山崎』を渡した。
そして今晩良ければ晩御飯をみんなにご馳走させてほしいとお願いした。
その日は設計のノックさん及びその取り巻きグループを誘ってシーフードレストランとその後カラオケ、最後はソープランドまで20名近くを接待し、15万バーツほど使った。
次の日は製造部門でお世話になったチャイラットさん一派を連れて同じように最後のソープランドまで接待した。
・・・・金が湯水のように消えていく・・・。
いつの日かこの投資が無駄にならないよう祈りたい。
タイに戻って激変した待遇の違いに嫉妬されないために。
第1話はこちらから