帰国したタイの変な日本人

バービアを愛した中年デブの元タイ沈没者がタイを想ってタイを舞台にした小説のようなものを書いてます。

腹上死して生まれ変わってタイ人に101話

「あなたも思うところはあるとは思います。でも飯田さんがああなった以上、我々は一致団結しないいけないんじゃないんですか?

それとも銀行の言いなりになりますか?」


「・・・・・・・・・」


「まあ次の役員会は穏便におねがいします。」




第1話はこちらから
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第101話 神の嗅覚




今の俺は「技術部主任」という肩書はあるが、実質は平社員だ。
そんな平社員の俺には関係ない話だが、俺の勤める機械製造会社の飯田社長は病気のために引退することが社内で発表された。

当分は現副社長が社長を代行するそうだけど、あの副社長は銀行の人なので製造部門には全く縁がない。

社内の噂ではすべての製造現場を統括する製造本部長で、実質ナンバーツーだった酒井専務が次の社長になる可能性が高いらしい。



俺を毎日のように「お茶」に誘っていた酒井専務は最近は忙しく各地を回っているようだ。
最近は全くお茶に呼ばれることがなくなった。

専務に毎日呼び出されることに遠慮していた上司の加藤技術部長により俺の出張することが無かったが、最近は本来の技術部員の業務である各地の問題解決のために出張に行くことが多くなった。


  
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今回の出張で俺のアシスタントを務めるのは東京大学工学部卒の舞野君だ。

俺なんかが偉そうに東大卒の後輩に教えることは無いのだが、加藤技術部長から舞野君の指導を仰せつかっている。



俺みたいなタイ国内ですら4番手ぐらいの国立大学しか卒業していなくて、しかもタイ人という俺に指導される日本の最高学府を卒業した舞野君。

心配になったので俺みたいなのに東大卒のエリートの彼が指導されることに納得できるかと正直に聞いてみた。



「アットさん【神の嗅覚】を間近で見れるだけで勉強になります!」



は?

【神の嗅覚】? 

前の上司の村上技術部長に「嗅覚」と言う表現で意見を聞かれていたが、何故に【神】なの?



「だってアットさんは普段はとんちんかんな事言うけどたまに突然刃物で心臓をえぐるように核心を突いた指摘をするじゃないですか!

そんな時にみんな言うんです【神の嗅覚】発動だ!って」



普段は とんちんかん だと?

ということは俺が自分で考えて述べる意見の大半が とんちんかん と言う事か?

一見褒められたような言い方だが、正直ショックだ。
未来を知っている俺が、記憶を元に技術的問題の原因を指摘する時との落差が激しすぎて【神の嗅覚】なんて言われるのね。



「それにアットさんは酒井専務のブレーンなんですよね!
いつも専務室に呼ばれて技術的な課題を相談されているのでしょ?」


残念ながら酒井専務とはこれまで一切技術的な話をしたことは無い。
俺の歴代彼女とのセックスの話はしてもな。



「いやいや いつもお茶飲んで世間話してるだけだよ。」



「すみません。僕なんかに話せる内容じゃ無いですよね。余計なこと聞いてすみません。」



勝手に誤解している東大卒のスーパーエリートの舞野君の前で余計なことを言うとボロが出るな。



「じゃあ舞野君。今日の大分工場の案件は死んだふりしておくから君が対応してね。」



とりあえず今日の問題は舞野君に任せて傍観するか・・・。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「・・・・アットさん。これは制御プログラムの問題だと思いますので本社の計装担当にプログラムを送って調べましょうか。」



「舞野君。制御プログラムを疑う前に油圧系統を全部再確認してみよう。
ここの油圧ホースを全部辿って・・・・・

・・・・これって間違って繋いでない?」



今日は運良く俺の実力で原因を発見出来た。



「やっぱりアットさんの嗅覚って半端ないですね!」



嗅覚じゃないって!!!


◇◇◇◇◇◇◇◇



今回の大分出張では技術部員としての役割を運良く果たせたが、舞野君に言われた普段は とんちんかん だという指摘にショックを受けて未だに落ち込んでいる。



「俺って技術部の仕事は向いてないかもなぁ。」



「何言ってるんですか! 超感覚派の天才のアットさんの能力の凄まじさに僕なんか正直嫉妬してますよ! アットさんこそ技術部に入るために生まれてきたような人じゃないですか!」


俺の独り言を舞野君に拾われて全力で否定されてしまった。
それにしても「超感覚派」って・・・俺なりに経験と知識の蓄積の上で原因を判断しているつもりなんだがなぁ。



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