帰国したタイの変な日本人

バービアを愛した中年デブの元タイ沈没者がタイを想ってタイを舞台にした小説のようなものを書いてます。

腹上死して生まれ変わってタイ人に97話

「専務。今回のアットがタイに来た目的を教えていただけませんか?」


「村上。悪いがお前でも言えん。」


「申し訳ございません。二度と詮索いたしません。」


第1話はこちらから
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第97話 ナムワーンとの再会1



今日は今回のタイ出張の唯一の目的であるナムワーンとの再会の日。


川沿いのシーフードレストランで景色の良い川に面したテーブルを予約してナムワーンを待った。

一昨日から3日連続のシーフードレストランだがタイ人を連れていく場合にはハズレが無いのがこのシーフードレストランだ。




約束の時間の少し前に来たナムワーンは・・・ひと回り・・・いやふた回りほど大きくなっていた。


元々「ぽっちゃり」であったナムワーンの胸、二の腕、お腹、尻などに脂肪がたっぷりと蓄えられ、俺を見つけて小走りに駆け寄って来る姿は『ボヨン ボヨン』という擬音が脳内に流れてくる。


ナムワーンの体はふた回りほど大きくなったが、幸い顔はあまり変わっていない。
別れてから2年以上。
ナムワーンの肌の張りは別れた頃と変わらない。

年齢は俺と同じ31歳だが、見た目は20代半ばと言っても良い状態を今もキープしている。



ナムワーンがこれだけ太った原因は俺が酷い別れ方をしたからだと思うと本当に申し訳ない。

出来るだけナムワーンの体を見ないようにし、やって来たナムワーンにすぐさま謝った。


「ごめんなさい。 本当にごめんなさい。」


「え? え? そんな・・・謝らなくていいよ。 アットは元気? 今日は私なんかと会って彼女さんとは大丈夫なの?」


ナムワーンにヌーイとの経緯を説明する。


そもそもヌーイとは付き合っていなかった事。

確かにヌーイと1度はセックスはしたが、相手に二股をかけられていて財布としか見られていなかった事。

失恋した直後に日本研修を命じられて、研修のはずがそのまま日本に転籍になった事。



ナムワーンは俺の話を真面目な顔で聞きながら「大変だったね」 「可哀そうだね」 「そのヌーイって人は酷いね」 と心のこもった相槌を打ってくれる。


こいつは本当に良いやつだな。




ひとしきりこれまでの経緯を話し終わった俺はナムワーンに別れてからの事を聞いた。

しばらくは俺が戻ってくるのを待って同じ部屋に住み続けたが、俺が日本に行ったことを知り、今の部屋に引っ越したらしい。


俺と別れてからは、寂しさを紛らわせるために犬を飼っている。

犬の世話が大変で彼氏を探す暇が無い。

体重が増えたのでもう誰も相手にしてくれないと諦めている。


本当にナムワーンには申し訳ない。



赤ワインを二人で飲みながら2年間の事を話した。
ナムワーンと話していると何故か安心する。
ワインや料理の注文も俺に遠慮しながらだし。



今の俺が日本本社に勤務していて、いつタイに戻れるか分からないことに触れるとナムワーンはとても悲しそうだった。


予想以上のナムワーンの反応に意を決した俺は用意していた指輪を渡してナムワーンにお願いした。


「もし良ければ結婚してください。 ダメならもう一度付き合ってください。」



少しの沈黙の後、ナムワーンの回答は


「ありがとう。・・・・・でも今は犬がいるから・・・。」




断られた。





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