腹上死して生まれ変わってタイ人に102話
「アットさん。酒井専務が社長に昇進されますので、有志でお祝いを贈ることになりました。
アットさんからもお願いします。」
「2000円ではありません。ひとり1万円以上です。」
「ダメです。アットさんは拒否できません。」
第1話はこちらから
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第102話 酒井社長
2005年10月。
酒井専務の社長就任が社内で発表された。
俺は既に先月の段階で知っていた。
それは酒井専務の秘書の人が珍しく俺の席まで来て、有志で贈る酒井専務への社長就任祝い金を徴収しに来たから。
俺が祝い金として2000円払おうとしたら秘書さんに「ひとり1万円以上です」と冷たく言われた。
さすがに1万円も払うのを躊躇した俺は秘書さんに聞いた。
「有志ということは拒否できますよね?」
と秘書さんに聞いたのだが、俺に拒否権は無いとさらに冷たく言われた。
これ以上ゴネると怒られそうな雰囲気だったので仕方なく1万円を払った。
酒井社長は元々専務として俺の年収の数倍の役員報酬を得ている。
その人がさらに社長になって収入が増える。
それを俺みたいな薄給の平社員が身銭を切って祝い金を送る必要あるのか?
小心者の俺は秘書さんのプレッシャーに負けて結局1万円をはらってしまった。
しかし美人の秘書さんのあの冷たい目はゾクッと来たなぁ。
俺はたぶんマゾでは無いと思うけど、あの秘書さんだったらハイヒールで踏まれながら
「この薄汚いタイ人が!」
と罵られてみたい。
後日秘書さんからのメールで、有志から集めた金で購入して贈ったのは【フランクミュラーの腕時計】だそうだ。
フランクミュラーって100万円以上するだろうに・・・今度酒井社長に会ったら「俺も祝い金を払いました!」とアピールしておこう。
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2006年3月。
酒井社長から久しぶりの呼び出しを受けた。
それは社長に就任してから初めての「お茶」の誘いだった。
今回初めて行く社長室。
前世でも行くことの無かった本社ビルの最上階。
「社長室」はこれまで行った「専務室」とは大きく違う。
専務室は豪華な作りであったが、あくまで「部屋」。
「社長室」は最上階すべてのフロアの総称である。
最上階にはまず部署としての「社長室」があり、6人ぐらいのスタッフが働いている。
社長室長さん率いる社長室職員、数名の女性秘書などが詰めるオフィスがあった。
さらに専用の大小会議室と応接室。
会議室の扉はまるでコンサート会場の入り口のような立派なもの。
恐らく会議室の中もすごいのだろう。
さすがに上場企業の「社長室」は違う。
「社長室」オフィスの受付で、名前と所属を言う。
すると社長室長さん自ら案内してくれ、社長室に入った。
高層ビルが立ち並ぶ長めの良い大きな窓ガラスを背に、社長用の黒い大きな机に座る酒井社長の姿があった。
「酒井社長! 就任おめでとうございます」
すかさず社長就任のお祝いを言った。
就任してから半年たってるけど就任以来初めて直接会うからな。
未だに就任祝いのフランクミュラーに一枚噛んだ俺へのお祝い返しは無いけど。
「ありがとうアット。まあそこに座れ。」
酒井社長は俺を真っ黒でピカピカの革のソファーに座るように促す。
酒井社長は社長に就任してから社外の毎日挨拶回りで忙しかったらしい。
社内にほとんど居なかったから社長室でコーヒーを飲むのは久しぶりだと言う。
そんな言い訳しなくても良いと思う。
俺も「社長室」のオフィスを通ってここまで来るのはさすがに気が引けるしなぁ。
「おまえもこのメンバーに入ってたよな?」
酒井社長は腕時計を指さしながら言う。
「そのお礼と言っては何だが・・・タイに戻してやる。」
といって俺に辞令を渡した。
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辞令
初級幹部1級 アッタポン シーチャッカーン
初級幹部3級への昇格及び、タイ工場製造部機械部グループリーダーを命ずる。
2006年3月
◇◇◇◇◇◇◇◇
ぶ!
吹いてしまった。
いきなり目に入った「初級幹部3級」の文字。
前世で昇格したのは入社16年目の38歳だった。
入社10年目の32歳で初級幹部3級になるヤツって他にいるのか?
おまけにタイ工場に戻ったら機械グループリーダー!
タイを出る前と比べてあまりにも責任の重さが違いすぎるからタイに戻る嬉しさなど吹っ飛んでしまう。
これが社長就任祝いの1万円の【お礼】なのか?
【お礼】のレベルをはるかに超えていると思う。
自分に贈られた祝いのお返しが【二階級特進】なんて職権乱用じゃないのか?
社長だから何でもアリか。
俺の昇格理由はさておき給料が増えるのは嬉しい。
初級幹部では級が1つ上がる毎に基本給が5万円ぐらいづつ増える。
今回は二階級昇格なので10万円増!!!
お祝い金1万円の【お礼】が給料10万円増!!!
1回きりの1万円の投資が毎月10万円の配当なんて嘘みたいなリターンだな。
前回はタイ人研修生だった俺を総合職社員に。
今回も二階級特進する計らいをしてくれた酒井社長。
俺は床にひざまづき、日本式土下座をしてお礼を言った。
「このご恩は生涯忘れません。会社と酒井社長に命を捧げる覚悟で尽くします。」
「オイオイそんな恰好はやめろ!お前にはもう十分活躍してもらったと思ってる。これからは村上を助けてやってくれ。」
???十分活躍って・・・俺は何か活躍したかな?
まあ良いか。
「タイに戻ったら全力で会社に貢献します!!!」
社長命令だ 6月11日に結婚式をしろ!」
また唐突な【社長命令】が出た。
しかも俺のプライベートに踏み込んだ【社長命令】。
前回の【専務命令】がナムワーンとの復縁で
今回の【社長命令】が結婚式の日取りなんて・・・。
第1話はこちらから
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アットの会社の職級
一般職1級 高卒新入社員
一般職2級 大卒新入社員もしくは高卒3年目
一般職3級 院卒新入社員、大卒3年目、高卒6年目
初級幹部1級 院卒6年、大卒8年、高卒12年
****ここまでは一斉に昇格する****
初級幹部2級 最短で院卒9年、大卒11年、高卒15年
初級幹部3級 最短で院卒12年、大卒14年、高卒18年
中級幹部1級 最短で40歳から
中級幹部2級 最短で45歳から 各拠点の課長級
中級幹部3級 概ね50歳 本社課長級
****普通の総合職社員はここまでで定年****
上級幹部1級 各拠点の部長
上級幹部2級 本社の部長 小規模工場長
上級幹部3級 工場長、支店長
役員
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