帰国したタイの変な日本人

バービアを愛した中年デブの元タイ沈没者がタイを想ってタイを舞台にした小説のようなものを書いてます。

腹上死して生まれ変わってタイ人に57話

機械製造会社の駐在員ユウイチは泥酔しながらも若いゴーゴー嬢をホテルに連れ込み行為の最中に突然死してしまう。

死んだはずのユウイチは目覚めたとき、タイ人中学生の【アット】になっていた。
コンケン大学を卒業したアットは前世で勤務していた会社に入社する。

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第57話 天然通訳 ヨさん事件 



アットの勤める機械製造会社には専属通訳が3名いる。

製造部門専属で製造現場で通訳するタイ人男性通訳のボーイさん。
経理・事務部門などで通訳を担当するタイ人女性のノイさん。
タイに帰化した元日本人の女性ミツヨさんである。


ミツヨさんは50歳ぐらいの女性で、タイ人男性と結婚してすでにタイに帰化してタイのIDカードも持っているが、社内の日本人からは旧姓で河野さんと呼ばれている。

タイ人からは最初はミツヨさんと呼ばれていたらしいが、呼びにくいので「ミツ」が省略されてヨさんとタイ人から呼ばれるようになっていた。




ある月曜日の朝。
朝礼前に設計部署のデスクに近い会議テーブルで日本人がコーヒーを飲みながら雑談している。

たまにここでは人事や査定について結構重要な話を日本人同士ですることがあるため、俺はいつものように聞き耳をたてていると社長がミツヨさんにグチを言っているのが聞こえた。


「河野さん!通訳のノイさんが妊娠してさーあと3か月で辞めるんだってさ。どっか良い通訳いないかな。」


事務所内の通訳であるノイさんは日本人受けする可愛い女性で社内でも人気がある独身女性であるが、俺としては興味が無かったので席をはずす。





しばらくして、毎週月曜日の全社朝礼が始まった。

毎週月曜日の全社朝礼では社長か副社長が簡単な話を日本語で行い、専属通訳3名のうち当番で、1名が横に立ってタイ語で通訳することになっていた。


その日の社長は安全と品質について1分ほど話をし、朝礼通訳当番のミツヨさんが社長の話をタイ語に訳す。

その直後に事件は起こった。




ミツヨさんは社長の言葉をタイ語に訳し終わった後で勝手にタイ語で話を始めた。



「みなさん! 今日は良いお知らせがあります。
通訳のノイさんが妊娠しました! 残念ながら3か月ほどで退社してしまいますが、みなさんノイさんをいたわってあげてください。」



驚いたのは本人のノイさん。
みんなの前で突然妊娠と退職を発表されてパニックになっている。


ノイさんは独身である。

しかも日本人駐在員も含めて社内で数名の男性と交際の噂がある「モテる」独身女性だ。

ミツヨさんの発表後もしばらく社内はざわついてあちこちでコソコソと誰が父親なのか各自で噂話をしている。



たとえ正式に婚姻している女性であっても【妊娠】と聞いて本人に確認も無く「良いお知らせ」と題して朝礼で発表するような文化はタイには無い。

社内のアイドル的な未婚女性の妊娠というスキャンダルを朝礼で全社員に発表されたノイさんはその月の月末の給料日以降は会社に出勤して来なくなった。




朝礼でのスキャンダル発表で社内がざわついている状況の説明を複数の日本人駐在員から「どうなってるの?」と何度も説明を求められた。俺はありのままを淡々と答えた。



日本人とタイ人双方から「余計なことを言う人」というレッテルを貼られたミツヨさんも程なくして退社してしまった。

唯一残った通訳のボーイさんだけでは通訳は足りないので、急遽俺が日本語が話せる俺は新しい通訳者が入社してくるまであちこちで呼ばれる忙しい毎日を送ることになった。



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