腹上死して生まれ変わってタイ人に62話
機械製造会社の駐在員ユウイチは泥酔しながらも若いゴーゴー嬢をホテルに連れ込み行為の最中に突然死してしまう。
死んだはずのユウイチは目覚めたとき、タイ人中学生の【アット】になっていた。
コンケン大学を卒業したアットは前世で勤務していた会社に入社する。
第1話はこちらから
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第62話 通訳の山口さん
2000年12月。
朝礼で日本語通訳の未婚女性の妊娠を暴露したヨさん事件以降、未だに当社での日本語通訳不足が解消されていない。
タイの自動車販売台数が低調である関係でタイの日系企業の景気は悪いのだが、日本語通訳は需要に比べて供給が追い付いていないので求人過多の売り手市場となっている。
俺が今貰っているの給料は15,900バーツなのだが、日本語通訳は20,000バーツで募集(日本語検定2級)しても応募者が来ないらしい。
日本語検定1級で機械工学学士の俺は部品の拾い出しをしながらも毎日色んな部署に通訳として呼ばれ、会議や朝礼で同時通訳もしている。
そんな俺の給料が未だに15,900バーツなのはありえない。
求人情報誌に出された当社の通訳募集2万バーツの紙面を持って事務担当の日本人駐在員である梶山さんに抗議に行った。
「梶山さん! これって何かおかしくないですか?
私は機械エンジニアの経験を積ませてもらうから今の給料で働いているつもりですが、毎日のように通訳として使われまくってますよ!
これって今私が会社を辞めて、改めて入社しなおしたら2万バーツもらえるんですか?
入社しなおす前に当然競合他社の求人にも応募しますけどね!」
次回の昇給で考慮するからとなだめる梶山さんだが俺はまだ納得していない。
「また900バーツの昇給だったら辞めますからね! 私はずっとこの会社に勤めていたいのですが通訳としても使い続けるなら配慮をお願いします。」
でも梶山さんに大幅昇給の権限が無いから また社内規定がどうのこうのと言われて1000バーツぐらいしか昇給しないだろうな。
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通訳不足の解消のため、会社は新たな日本人現地採用枠で日-タイハーフの男性 山口ケンヂさん(29)が採用された。
日-タイハーフというより日本人と欧米人のハーフのように彫りの深い顔立ち。
背が高く、濃い眉毛とやや長めの髪。
顔は男前で俳優のような人であった。
日本人駐在員であった父親とマレーシア人の血が混じったタイ南部出身の母親から生まれ、バンコクの日本人学校の中学を卒業してからタイのインターナショナルの高校・大学を卒業後、タイ企業などの幾つかの企業に勤めた経験があるらしい。
俺は新しく入った山口さんと日本語で話をしたが、普通に話せて常識のある感じだった。
新しく入った山口さんが事務・経理部門と会議の通訳を担当する。
俺はようやく夜遅くまで続く幹部会議の通訳から解放されてほっとしていた。
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数日後、事務担当の日本人である梶山さんから聞かれた。
「アット君。山口さんってタイ語話せるの?」
梶山さんは山口さんのタイ語能力に疑問があるらしく、俺に調べさせたいようだ。
「今さらタイ語で話しかけられないので次の会議に参加して良いですか?翻訳内容が正しいか確認してみます。」
余計な仕事が増えた。
来年の昇給のためにここで協力しておこう。