機械製造会社の駐在員ユウイチは泥酔しながらも若いゴーゴー嬢をホテルに連れ込み行為の最中に突然死してしまう。
死んだはずのユウイチは目覚めたとき、タイ人中学生の【アット】になっていた。
コンケン大学を卒業したアットは前世で勤務していた会社に入社する。
第1話はこちらから
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第54話 ロイエットからの刺客2
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「ソンクラーンはちゃんと家に帰らないと駄目だよ」
俺の母親にとって俺自身が帰ることより「俺が持ってくる金」が目当てなのだと思う。
大学生の頃ですら渡したお金が少ないと文句を言う母親だ。
単純に馬鹿なのでどんな状況であっても
バンコクから戻る=金持ってロイエットに来る
としか思考が働かないのだろう。
多少は送金しないとまずいと思い、1万バーツ送金した。
俺が3万バーツ持って帰っても恐らく「少ない」と不満では無いだろうか。
文句を言われるよりは送金だけするほうが良い。
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数週間後。
突然妹のエーがアパートを訪ねてきた。
三人兄弟で本名と別に両親が付けたニックネームで現在も呼ばれているが長男の俺がアット。本名のアッタポンの省略版。
弟がヌン。タイ語で1という意味。
産まれたのは2日だが、産気づいたのが1日という意味不明の理由でヌン(1)というニックネームを母親がつけた。
妹がエー。アルファベットのAから。
命名理由は適当。
最初に生まれた子供に1とかAといったニックネームを付けるというなら理解できる。次男以降に1と名付ける両親の感性が理解できない。
弟にヌンと名付けたのは何か人より優れた「一番」になってもらいたい気持ちも若干あるらしい。
その甲斐あって俺の知る限りのタイ人の中で「水牛のように馬鹿」という表現が一番似合うのはヌンだ。
今回バンコクに来た妹は弟のさらに2つ年下で18歳になる3人兄弟の一番下のエー。
エーは去年中学を卒業して今は地元のラジオ局でDJをしているらしい。
職業【ラジオ局のDJ】といってもラジオに出演して喋るのは週に1度だけ。
出演して1回出演ごとに100バーツの報酬らしいので週休100バーツ(月給400バーツ)の経済的ニートだ。
全国放送のラジオ番組ではなくロイエットだけでDJというのが職業だと言えるのか疑問に思う。
ラジオ局と言うより日本で言うコミュニティ放送局。
えふえむとおかまちとかぽかぽかラジオみたいなところで。
『国立大学を出てバンコクで機械エンジニアとして機械設計に携わる』
これは両親にとっては想像の範囲外すぎて理解できない行動であるのだろう。
『ソーシャルメディアマネージャーになって、いいね!を10万個獲得しました!』
という回答をされたのと同じだ。
つまりどんなことをしてどれだけ金を稼いでるか想像もつかない。
それに比べて実家の農作業を手伝いながら、たまに妹の声が自分の家のラジオから流れてくる。
意味不明な職業(両親にとって)に就く俺なんかより実質ニートの妹の方が両親に評価されているのだろうな。
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話がそれてしまったが、俺とはあまり接点の無い妹がわざわざバンコクに来たのは母親からの伝言を伝えるため。
「ソンクラーンに田舎に帰ってこれない仕事など辞めてすぐにロイエットに帰ってきなさい」
こちらの都合や生活を完全に無視した要求だ。
ムカついたので妹に以下の伝言を頼んだ。
会社を辞めろというのは「ソンクラーンで普通に休める会社に転職しろ」という意味だと思うが、お前らの都合で俺が前世から20年以上勤めている今の会社を辞めるつもりはない。
勝手なことを言うなら収入がなくなるぞという脅しだが・・・たぶん伝わらないだろうな。
そろそろ本格的に両親と連絡を断とうか。
妹は帰りの旅費が無いと言う。
片道切符でバンコクに来る根性がすごいと感心すべきなのか、それとも嘘を疑うべきなのか・・・金をくれと言うことか。
2,000バーツ渡して今日中に帰れと言ってやったがナムワーンが
「女の子がひとりで夜行バスに乗るのは危険だから今日はウチに泊まって明日の朝に帰ったら?」