機械製造会社の駐在員ユウイチは泥酔しながらも若いゴーゴー嬢をホテルに連れ込み行為の最中に突然死してしまう。
死んだはずのユウイチは目覚めたとき、タイ人中学生の【アット】になっていた。
コンケン大学を卒業したアットは前世で勤務していた会社に入社する。
第1話はこちらから
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第51話 ロイエットからの刺客1
1998年3月。
卒業証書授与式のあった翌月、ロイエットの実家にいた弟（ヌン）がバンコクのアパートにやってきた。
弟（ヌン）がロイエットから来た直後、ナムワーンはヌンを気遣い身の回りの世話や食事を作ってあげたり、時間があれば色々とヌンに話しかけたりしていた。
しかし少しずつヌンとのやり取りで首をかしげるようなっていく。
ナムワーンがヌンに話しかけると10回のうち8回は「ウン」とか「まだ」などと最低限の応対をする。
10回話しかけると2回ぐらいはフリーズして固まったように無表情で無反応になることがある。
最初ナムワーンはヌンがフリーズするのが「怒った」とか「気を悪くした」と思っていたが、俺も含めて何度かヌンに話しかけた結果、判明したのが【難しい話や答えにくい状態になるとフリーズする】ということだった。
フリーズしたヌンは不気味なので俺もナムワーンも次第にヌンに話しかけなくなっていった。
ヌンが俺のアパートに来てから迷惑なのがヌンが見ているテレビの音量が尋常でなく大きいこと。
タイ人はそもそも日本人に比べて音量設定が大きい。普通の日本人が10段階で3-4の音量設定だとすればタイ人は5-6の音量でテレビを見たり音楽を聴く。
俺はこの10年でこの騒音にも慣れていたが、弟の場合はほぼＭＡＸの尋常ではない音量でテレビを見る。
俺がうるさいと注意したら音量を1段階だけ下げるが、まだ相当うるさい。
何回もヌンにボリュームを下げろと言うとフリーズする。
俺やナムワーンとの会話では10回に2回以上はフリーズするヌンだが、週末には数人のヌンの友人を俺のアパートに無断で呼んで楽しそうに大声で話をする。
しかも勝手に俺のアパートに泊まっていく。
こんな異常な弟だが1-2か月もすれば出て行ってもらえるから我慢しようとナムワーンと励ましあっていたところ、ウチのアパートに来てから1ヵ月経過しないうちに、弟は仕事に行かずにアパートで寝ていることが多くなった。
ヌンが3日間連続で仕事に行かないので訪ねてみた。
「ヌン！今日は仕事に行かなくても良いのか？」
「休み」
それからさらに3日休んだことで明らかにおかしいと思って問い詰める
「ヌン！今日は仕事も行かなくても良いのか？」
「休み」
「1週間も仕事が休みなんてありえないだろ！」
「・・・・・・」
「辞めてないか辞めたかどっちなんだ？」
「辞めた」
俺が最初に聞いたときに嘘をつくことでどんなメリットがあるか理解に苦しむ。「仕事を辞めたなら次の仕事を探しに行けよ！」というと渋々どこかに出かける弟だった。
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数日後、事件が起こる。
「アット！私の金のネックレスが無い！」
ナムワーンは貯金の代わりに余った給料でせっせと金を買っている。
銀行預金を勧める俺に対して、金は値上がりするし、持ってるとアクセサリーになると頑なに余ったお金で金を買い続けるナムワーンはその時点で4バーツ（60グラム）相当の金のネックレスを持っていた。
無くなったネックレスを二人で探しているところ、ヌンがバイクで戻ってきた。
ヌンはそもそもバイクなど持っていない。
「バイクはどうしたんだ？」
「友人から借りた」
シートにビニールがかかった新車を貸すか？普通。
金を盗んだのはヌンだと確信した俺は、まず証拠をつかむべく近所の金行（金の販売および金の買い取りをする店）に行き、ヌンのフルネームを告げて金を売ったかどうか確認する。
タイの金行では犯罪防止の観点から金の販売には自身のＩＤカードの提示が必要で、売った客の個人情報が店に残る。
普通の感覚では犯行現場から離れた場所で換金するはずだが弟は馬鹿なのであり得る。
やはりお店に確認してもらったところ、ヌンはここで4バーツの金（現金20,000バーツ相当）を売っていた。
直接問いただしても良いが、暴れられると手が付けられないし、殴られて会社に行けなくなるのも避けたい。
なので急遽俺は父親に後始末を付けてもらうべく、その週末にロイエットに帰った。
わざわざ帰ったのは、こういった件について母親では間違いなく話にならない。
父親に話すべきだが、父親は電話で話すことを嫌う。
仕方なく直接相談すべくロイエットに帰った。
