腹上死して生まれ変わってタイ人に52話
機械製造会社の駐在員ユウイチは泥酔しながらも若いゴーゴー嬢をホテルに連れ込み行為の最中に突然死してしまう。
死んだはずのユウイチは目覚めたとき、タイ人中学生の【アット】になっていた。
コンケン大学を卒業したアットは前世で勤務していた会社に入社する。
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第52話 ヌンの排除
急遽ロイエットの実家に戻り父親の目の前に5,000バーツを置いてお願いした。
「お願いだから弟を連れて帰ってほしい。」
俺は父親に弟が俺の生活を妨害して困っていると訴えた。
バンコクに来て数日で仕事を辞めて俺のアパートゴロゴロしている。仕事も探さず、世話になっているナムワーンの金のネックレスを盗んで売ってその金でバイクを買った。
仕事もしないのにガラの悪い友達を無断で俺のアパートに呼んで夜中に騒がしくて眠れない。
俺が家族のために働くのを弟に邪魔してほしくない。
俺の金のネックレスを盗むならわかるが、他人のナムワーンのネックレスを盗むのは立派な泥棒だ。
俺の要求を受け入れた父親とピックアップカーですぐにバンコクに向かうことになった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
バンコクに向かう車の中で父親は弟についての話を聞く。
「ヌンは小さなころから馬鹿だ。【水牛のように愚かな】と言う表現があるがヌンは水牛みたいな奴だ。
俺の会社で働いていた時も、社長が呼んでも固まったまま答えないし、何度教えても商品の場所を覚えない。
ガードマンなら出来ると思ったんだが・・・母さんはやればできる子だと言って譲らないけどな。」
ヌンは母親に似たのだと父親は言う。
俺は父親に似たから大学に行けたのだと。
俺が大学に行くのに金を出さないだけでなく問題があれば俺に金を出させる。
払えないローンを組んで車を買ってローン支払いのために俺を大学に行かせずに無理やり働かせようとした父親は馬鹿と言うか先のことは全く考えない。
母親に比べて父親の方が少し軽傷であるが頭が良いとは思えない。
今の俺は体はアットだが、思考や頭の回転は前世のユウイチのまま引き継いでいる。
元々のアッタポンの脳の性能とユウイチの時の性能差は自覚できないが、これまでの俺の活躍は父親の遺伝では無いと断言できる。
しかしこの場では俺は父親に似たから優秀だということにしておこう。
さっき父親にガソリン代と日当のつもりで5000バーツ支払ったのに道中のガソリン代や途中の飯代も当然のように俺に支払わせる。
本当に俺の家族はろくでもないヤツばかりだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
バンコクのアパートに到着し、俺の部屋でゴロゴロしているヌンを見つけた父親は弟に尋問した。
「ヌン。仕事は辞めたのか?」
「来月から来なくていいと言われた。」
「バイクを買った金はどうした?」
「友達から借りた。」
「お前が金のネックレスを売るところを見た人がいるらしいが」
「・・・・・・」
「おまえが盗んだんじゃないのか?」
「・・・・・・」
「とりあえずロイエットに戻ろうか」
「・・・・・・」
明らかに嘘とわかるヌンの答えを父親は否定するでもなく、一緒に帰ろうと促す。
いつものようにフリーズするヌン。
一緒に帰るなら罪は問わないということをヌンが理解したかどうかわからない。
恐らくバレなくてラッキーだと思っているだろう。
ヌンは父親のピックアップカーでロイエットに戻っていった。
ナムワーンから盗んだ金を売って買ったバイクを当然のように荷台に積んで。
「バイクは置いて行け」とまでは言わなかった。
結局ヌンはバンコクに来てほぼゴロゴロしていたにも関わらず、バイク1台分丸儲けである。
ナムワーンに金を補填する俺は父親に払った5,000バーツやガソリン代も合わせて大損である。
ロイエットの家族に関わるとお金を失ってさらに気が滅入る。
このアパートから引っ越して、今後一切連絡先は言わないでおこうと誓った。
その後、ナムワーンには金を5バーツ分(75グラム)迷惑料も含めて買って被害を補填してあげた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
現在の金の値段は、1バーツ(15グラム)当たり5,000バーツだった。
そういえば俺が死ぬ前にゴーゴー嬢に買ってやった1バーツの腕輪は2万バーツを超えていた。
今に比べて20年後は金の価値は4倍になったということだ。
俺もナムワーンのように今月から給料から毎月5000バーツ分の金を購入しよう。
5000バーツの定額投資なら金の価格の変動に対して金の価格が下がれば買う量を増やし、価格が上がれば買う量を減らす【ドルコスト平均法】で買えば、長期的に値上がりが確実な金が今下がろうが上がろうがリスクを負わずに投資できる。
家に置いておくと物騒だからある程度たまったら銀行の貸金庫に預ければいいのだ。
今回の損失以上の利益を金の値上がり益で得てやろう。
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