帰国したタイの変な日本人

バービアを愛した中年デブの元タイ沈没者がタイを想ってタイを舞台にした小説のようなものを書いてます。

腹上死して生まれ変わってタイ人に34話

生産機械メーカーのタイ法人に勤務するユウイチは泥酔しながらも若いゴーゴー嬢をホテルに連れ込み行為の最中に突然死してしまう。

死んだはずのユウイチは目覚めたとき、タイ人中学生の【アット】になっていた。

第1話はこちらから
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第34話 アットの派遣通訳記2



退院から1か月経過し、アットの傷は癒えて顔のアザも消えた。
右目の視力が落ちてしまい眼鏡が必要になったが、今のところ日常生活や勉強には障害は無い。


2月1日から4月末までの3か月間大学は長期休暇となるため予定通りバンコクの日系運送会社に通訳翻訳のアルバイトとして働きに行く。

前回のアルバイトで日本語能力を評価されたため、今回はいきなりサムットプラカーンの日系プラスチック成型工場に1か月間通訳として派遣されることになった。



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日系工場での通訳なので日本人駐在員もしくは応援の日本人出張者に付いて通訳をするかと思いきや、書類が高く積まれた部屋に案内された。


この工場ではタイ人のスタッフだけでなく工場作業員に対して提案やアイデアを募っており、A4用紙を半分に切った紙にタイ人従業員が手書きで提案内容を書いた紙が段ボール箱に20箱分以上積まれていた。

俺の仕事はこの提案内容を訳して日本人の工場長に報告する事。

タイ人スタッフさんから聞くところによると、この部屋に入れられて翻訳を命じられた通訳者はすぐに辞めてしまうのでこの提案用紙が溜まる一方だったらしい。


タイ人工員が汚い字で書いた難解な提案用紙はかなり手ごわい。
前任者の方法に従って、赤のボールペンで提案用紙の余白に日本語訳を書き込む作業を始めた。


・休憩室のエアコンの調子が悪いので修理してほしい
・制服の支給枚数を増やしてほしい
・休憩時間にテレビが見たい
・トイレの数を増やしてほしい
・給料を増やしてほしい
・残業を増やしてほしい


提案用紙ではあるが、ほとんどの内容は工員の作業環境や待遇に関する要求であった。

3日間、朝から夕方まで気合を入れて訳すが、段ボール箱半分も訳せなかった。
しかも訳した提案用紙の中に有効な提案らしき内容はほとんど見当たらなかった。


3日間の成果をタイ人マネージャーさんに渡すときに、「みなさんに提案の趣旨が伝わっていないのでは?」と聞いてみたが、タイ人マネージャーさんは「君はそんなこと気にしなくて良いから」と全く気にされなかった。


1週間かけてようやく段ボール箱1つ分を訳し終えると、新たに提案用紙が満載の段ボール箱が運び込まれて来たので気持ちが萎えてしまう。

減らない段ボールにうんざりしながら意味のない提案用紙に日本語訳を書き込むことさらに1週間続けた頃に初めてこの会社の日本人に声をかけられた。


「翻訳君!日本語分かる?」


意味不明な問いかけに戸惑いながらも


「はい。日本語検定2級を持ってますし、日本に留学経験もあります。」


タイ人日本語通訳スタッフさんが休みだったので翻訳として派遣されてきた俺に代役を頼みたかったが、翻訳者なので日本語の聞き取りが出来るかどうか確かめたかったようだ。


「誠心誠意、代役を務めさせていただきます。不束者ながら宜しくお願いいたします。」


少しカチンときたのでわざと難しい言い回しで答えてやった。
生産現場に同行し、日本人について通訳を務めることになった。


「おまえはちゃんとこの部分を見てパンハーがミーかどうか調べてプーや!」

変なタイ語交じりで話す日本人の言い方は難解極まりない。要は「問題が無いか常に監視し、問題があれば直ちに報告せよ」だと理解してタイ人作業員に伝える。


俺が日本人と同じ発音と語彙で通訳を務めているため非常に驚かれ、昼休みの食事には日本人のテーブルに呼ばれて色々話を聞かれた。

しばらく雑談した後、日本人工場長さんに提案用紙について意味のない提案が多すぎるため「趣旨が理解されていないのでは?」と意見をいっておいた。

出来れば提案用紙を少し改善して訳しやすいようにしたい。



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翌日。
タイ人マネージャーさんとタイ人通訳さんが翻訳部屋に来て「余計なことを言うな」と怒られた。

その場でしっかり謝ったのだが、その日以降周囲のタイ人スタッフさんの対応が冷たくなり1か月終了とともに派遣は終了となった。



今回の件で反省しなければならないのは、俺の日本語能力が高すぎるためタイ人通訳の嫉妬を買う事と、タイ人マネージャーを差し置いて日本人に意見を言ってはいけないという点だろう。


社会に出てもタイ人マネージャーや本職の通訳の面子をつぶさないように気を付けなければならない。

日本人駐在員は無力なので直属の上司のタイ人マネージャーを怒らせても守ってくれない。
日系企業とはいえ、タイにある以上はタイ人上司や同僚とうまくやっていかなければならない。


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