帰国したタイの変な日本人

バービアを愛した中年デブの元タイ沈没者がタイを想ってタイを舞台にした小説のようなものを書いてます。

海外転生16-タイに行ったら本気出さなくてもやっていける

「海外転生」

それは日本で居場所が無くなったり、能力も無く努力もしないで現状に不満のある社会不適合者が新たな新天地として海外に活路を求め新しい人生を歩むこと。

この話はタイでなら俺でも勝ち組になれると信じてやってきた無職で職歴も無いが自意識過剰な男の実際の話。
 



第15話 重大な契約違反


バンコクの北100kmにあるサラブリ工業団地の工場の総務マネージャーに就任した俺の主要任務は今のところ以下の3点である。

★ISO(国際標準化機構認証取得
★タイ人スタッフの採用(採用後の勤怠管理)
★採用したスタッフの中国研修


ISOについては認証取得サポートコンサルや知人に相談しても「自分でやれ」と言われるだけで誰も手伝ってもらえないし、おれ自身が全然理解出来ないので今のところ放置している。
従って暇な俺はタイ語能力を買われて工場長とタイ人スタッフとの通訳が主な仕事になっている。

生産ラインの立ち上げとともにタイ人スタッフの増員がそろそろ必要となるため、候補者の面接を総務マネージャーの俺が任される事になる。
俺の2年間の人材紹介会社での経験を発揮できる。それにしても企業側として採用の可否を俺が決めるようになるとは俺も偉くなった。


俺は生産技術について良く分からない。
スタッフの採用基準は面接での応対の良さ態度を重視して選考する。
 
日系の大手製造業での電子機器部品の生産管理経験があるからといって「働いてあげても良いよ」的な横柄な態度の候補者は不採用にしてやった。

工場長のおっさんは経験内容が合致しているので採用したいなどと「たわごと」を言っていたが俺が強く不採用を主張した。人材ビジネスのプロの意見に口出しをしてほしくないものだ。

おれが生産管理マネージャーとして選んだのはチュラロンコン大学でMBAを修めて英語が非常に堪能で礼儀正しい候補者だ。タイでのマネージャーはマネージメント能力こそが求められる。

さらに今回の採用の目玉は日本語通訳者。
彼女はミャンマー人だが日本語能力は俺が今まで面接した中で発音や語彙が飛びぬけて優秀である。
希望給料もたった5万バーツで掘り出なので即採用とした。

こういった俺の尽力により生産スタッフならびに事務スタッフの陣容が整い、生産スタッフは順次中国工場に研修に送り出す。
俺の総務マネージャーとしての仕事は順調だ。(ISOには未だに全く手をつけていない)
 
製品の試作が進んでいるが作業員およびタイ人エンジニアの能力不足による不良品の発生が多く問題になっている。
それに加えて製品の納入先からも「ISOの認証を取らないと製品を受け入れない」と言われて慌てた日本本社からISOの認証の進捗について問い合わせがあった。

日本本社から催促された俺は急いでISOの標準書を外注でタイ語に翻訳したものを部下のタイ人事務スタッフに渡して「自社の生産内容に合わせて修正しろ」と命令した。

 
1ヵ月が経過した。
 
日本本社から本社社長がISOの認証の進捗状況を自ら確認しにタイの工場に来ると言う。
焦った俺は部下の事務スタッフにISO標準書の修正の進捗を確認した。
生産内容に合わせて修正どころか表紙の会社名すら書きかえていない。
 
事務スタッフは「私は事務なので生産のことはわかりません」と開き直った。

クソ!馬鹿タイ人に任せた俺が馬鹿だった。
自分で出来ないからと1か月間も放置するとは。
とりあえずタイ人スタッフの怠慢として本社社長に報告したところ、社長命令で工場長のおっさんが標準書の作成に取り組み始めた。
 

危機感を感じた日本本社から何人日本人がサラブリ工場に送り込まれ、生産ラインの改善とISO取得に向けてテコ入れが始まった。

 
日本人が増え、毎日夕方に日本人だけで行う会議を行うようになった。
その席で俺は
・どうして生産管理マネージャーが生産現場に出ないのか
・どうして生産管理経験が無い女を生産マネージャーにしたのか
・どうして日本語通訳がタイ語の出来ないミャンマー人なのか
・どうして現場にタイ人が4人しかいないのに総務にタイ人女性スタッフが5人もいるのか
 

などと毎日のように俺が責められるようになり、この会社の居心地が悪くなった。

さらに諸問題に対処するためタイに応援に来た日本人は遅くまで残業し土日も働くようになった。
工場長を始め、応援の日本人スタッフ全員はバンコクのホテルからの通勤時間が無駄だと、工場付近のアパートに引越しすることになった。
 
俺が毎日通勤に利用している日本人専用の乗り合いバンはバンコクまで行かないことに決定した。

これまで俺のアパートから工場まで送迎していた乗り合いのバンが無くなるので、この俺にアユタヤかサラブリに引っ越せと言うのだ。

バンコクからの送迎が最初の条件だったのに自分勝手な理由で一方的に送迎を打ち切るとは重大な契約違反だ。

イカやテーメーの無いアユタヤに俺は住まない。
会社の重大な契約違反に対して俺はやむを得ず退職することにした。

 
俺を紹介した人材紹介会社にもこの重大な契約違反に対して抗議のメールを送ったが、それでも気が済まず、タイちゃんねるの掲示板にその人材紹介会社ならびに担当者の悪口と襲撃予告を書き込んでおいた。


後に知り合いから聞いたのだが、この会社はタイでの生産をあきらめて撤退を決めたらしい。
簡単に撤退するような不安定な会社を紹介する人材紹介会社の責任を俺は問いたい。

その後、新しく登録する人材紹介会社での面接や、再登録をした人材紹介会社には「長く働ける会社を紹介してほしい」と強く念をおすことにした。

 
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