コールセンターの⑨ 6話
「タイのコールセンター」
それは日本人でさえあれば年齢・学歴・経験・語学力を問わず誰でも就くことのできる仕事。
経費削減のために日本の労働法を遵守する必要も無く低賃金で雇用できるタイで日本人を低賃金で雇いコールセンター業務を行っている。
そんなタイのコールセンターで働く一人の男性の物語。
経費削減のために日本の労働法を遵守する必要も無く低賃金で雇用できるタイで日本人を低賃金で雇いコールセンター業務を行っている。
そんなタイのコールセンターで働く一人の男性の物語。
第6話 コルセンの愉快な同僚
バンコクのコールセンターに採用されたシパケイは指示されたとおりに、指示された場所に第1月曜日の9:00に出勤した。
会議室に集められた新入社員は男8名女2名の10名。
シパケイは念のためスーツを着て出社したが、約2名はラフな格好・・というか変な格好のヤツがいる。
ひとりは洗剤のマークの書かれたTシャツに短パン姿で大きなリュックで来ているおじさん。
マイケルジャクソンがスリラーのPVで来ていたような赤と黒の革ジャンを着た若いお兄ちゃん。
10人で全体説明を半日間受けてから午後には配属先が言い渡され、その後配属部門別の研修となった。その部門別研修を1週間受けてからコールセンターのシフト入りすることになるらしい。
シパケイが配属されたのはコールセンター第2部で、主にIT関連機器の操作方法・修理受付・クレーム受付部署であった。
シパケイと同時にこの部門の入社研修を受ける日本人があと3名いた。
場違い感が目立つおじさん。
洗剤の箱がプリントされたTシャツに短パンそしてバックパッカースタイルの小太りのおじさんは、時々高い声で『ひぃーふっふっふ』と変な笑い方。
(以下:バックパッカー)
マイケルジャクソンがスリラーの赤黒の革ジャンの兄ちゃん。
こいつは無口でこれまで全く発言も会話もしていない。
(以下:スリラー)
丸坊主で丸眼鏡をかけた真面目そうな30歳の青年。
日本では農協で働いていたらしい(以下:農協)
「シパケイさん。タイでウエイトレスにコーヒーを頼むときに『コーヒー』って言ったらダメだよ ひぃーふっふっふ。」
「どうしてです?」
「だって『コーヒー』てエッチな言葉だから ひぃーふっふっふ。」
入社研修の間は(バックパッカー)と(農協)が交互にシパケイに話しかけてきた。
(スリラー)は常に【話しかけるなオーラ】を出しているし、実際にバックパッカーが話しかけて無視されていた。
バックパッカーは農協にも話かけていたが、農協は相手の話は全く聞かないタイプで一方的に話す。
逆に他人から話しかけられてもほとんど反応しない。
「シパケイさん。アユタヤは電車で行くのが最高なんすよー。電車は遅いって言われてるけどアユタヤは車より電車がお勧めっすよー。3等車は椅子が堅いけど慣れたら大丈夫っす。今度俺の座布団も持っていきましょうか?」
「なるほど。」
「は? おろね?」
「なるほど・・。」
ほとんど聞いていないシパケイであるが、このメンバーで唯一相槌を打つシパケイに研修期間中はバックパッカーと農協が交互に話しかける状態が続いた。
シパケイは時間が許せば毎日遅くまでビリヤードをするビリヤード馬鹿ではあるが、他人に聞かれない限りは決してビリヤードの話はしない。
上級者とレベルの高い話をするのは嫌いではないが、基本的には無口な方である。
研修2日目にはタイ人スタッフに連れられてアパートを見に行った。
紹介されたアパートはBTSの戦勝記念塔駅の近くで家賃が5000バーツ前後だった。
バックパッカーと農協は場所が気に入らないらしく、自分で探すと言って断った。スリラーは途中で勝手に帰ってしまい、シパケイも安っぽくて気に入らなかったので断ると、案内していたタイ人女性はキレ気味に「UP TO YOU!」と言って怒って帰ってしまった。
案内する前に【アパートを案内すること】と【案内する場所】を言ってから案内すれば良いのにとシパケイは思ったが口には出さなかった。
結局、シパケイはBTSシーロム駅前のSilom Grand Terraceのスタジオルームを日系不動産会社の仲介で借りることにした。
家賃は25,000バーツ。
コールセンターの給料は3万バーツに満たないのに。
家賃と光熱費・交通費だけで給料がすべて消えていく生活が始まるが、シパケイには幸いにも貯金がある。危機感と将来の計画は無いが。