帰国したタイの変な日本人

バービアを愛した中年デブの元タイ沈没者がタイを想ってタイを舞台にした小説のようなものを書いてます。

コールセンターの⑨ 7話

「タイのコールセンター」
それは日本人でさえあれば年齢・学歴・経験・語学力を問わず誰でも就くことのできる仕事。
経費削減のために日本の労働法を遵守する必要も無く低賃金で雇用できるタイで日本人を低賃金で雇いコールセンター業務を行っている。
そんなタイのコールセンターで働く一人の男性の物語。




第7話 コルセンの仕事


バンコクのコールセンターに採用され、1週間の研修を終えたシパケイはシフトに入ってコールセンターの仕事が始まった。

シパケイの担当はIT機器メーカー商品の操作方法やクレーム受付で、一番多い問い合わせ内容は【インターネットがつながらない】だった。


シパケイのパソコンにはクレームの内容に応じて対応マニュアルが表示されており、電源が入っていますか?とか電話線のジャックがが繋がっていますか?などと確認していく。

「電源が入っていますか?」と聞くと高確率で相手が怒るが、無線ルーターの電源が入っていないケースも多いので省略は出来ない。



中には高度な理由でネットが繋がらない場合もあるので、そのような専門的な件については「コールセンターのコールセンター」と呼ばれるメーカーの担当者に確認する。




ほとんどの内容がパソコンで表示されるマニュアルで解決されるので、1週間もすれば何も考えずに流れ作業のように電話対応が出来るようになった。


シパタケの職場はBTSの駅前の大きなビルを1フロアすべてを使用したオフィスで、中央のエレベーターを挟んだ2つの大きな部屋には200人以上の日本人がオペレーターとして働いている。


事務系のタイ人が働く部屋もあるが、日本人オペレーターは立ち入り禁止となっていて、廊下やエレベーターですれ違う時にタイ人女性スタッフに「サワディカップ」と頑張って挨拶しても目を合わせずに「カー」とだけ返答され足早に去っていく。


職場でタイ人と接するかと思っていたが、社内でタイ人と会話をすることが無いのでタイ語を使うことは全く無い。

積極的に他の日本人オペレーターと話すことも無く、休憩時間が同じ時間になったバックパッカーと農協に話しかけられるぐらいだ。




他人にあまり興味の無いシパケイにとってこの職場は快適であった。


シパケイは勤務終了後は会社の近くにあるビルの地下にあるビリヤード場に毎晩通っている。
ここの台はよく手入れされていて花台(常連上級者が集まるテーブル)のレベルが高く、毎週のようにハウストーナメントが開かれている。



このビリヤード場で仲良くなったのがシンガポール人のフィリップだ。
フィリップと言う名前ではあるが、クセのある英語を話す見た目は中国人の人懐っこいおじさんである。




「あのねー 私はフィリップさんです。よろしくねー。バンコクには2年も住んでるから何でもきいてねー。」




顔見知りになってからフィリップは毎回ビリヤード場で会うたびにシパケイに話しかけてくれるようになった。
フィリップはビリヤードの腕前はいまいちだが、バンコクのビリヤード場に詳しく、ハウストーナメントの行われている場所に案内してくれ、オーナーや常連客にシパケイのことを紹介してくれた。

親切な人だが、このフィリップがお金を支払う場面は見たことが無い。そういう人だ。

シパケイとフィリップの関係はこの後もずっと続くことになる。