帰国したタイの変な日本人

バービアを愛した中年デブの元タイ沈没者がタイを想ってタイを舞台にした小説のようなものを書いてます。

不動戦士タカハシ 5話


第5話 初出勤2



初出勤して何もしないで座って待つこと数時間。
午後2時になってタカハシは日本語が少し出来るタイ人スタッフのヌッサリンに同行して会社のライトバンに同乗してどこかに連れて行かれた
連れて行かれた先は立派なコンドミニアム
訪ねていった部屋には中年の日本人女性がいてヌッサリンはその日本人女性に書類を渡している。
状況を全く理解していないタカハシはただただ ぼーっと立ってヌッサリンのやり取りを眺めている。


「あなた日本人でしょ!説明して!」


突然日本人女性に言われるも、全く状況がつかめていないタカハシは何をどう説明すれば良いかわからない。

「すみません。 すみません。」

とりあえず謝るタカハシ。
ヌッサリンが対応して日本人女性には納得してもらえたようだった。


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ハッピー商事は不動産会社で、日本人駐在員向けにコンドミニアムの賃貸仲介をしている会社である。
 
 
初日にヌッサリンと出かけたのは賃貸が決まったお客様に賃貸契約書にサインをもらう仕事だった。
 
そもそもハッピー商事が不動産仲介業だと知らなかったタカハシはヌッサリンから断片的な説明を受けても全く理解出来ていない。
 
 
タカハシがハッピー商事の事業内容と自分の役割を理解するのに1週間が必要だった。
 
お客様から契約書について説明もできないしサインをもらえないタカハシ。
 
その1週間で社内のタイ人からタカハシは「使えない馬鹿な日本人」という評価が広まった。
 
 
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「ダーリン! 新しい服を買うから1万バーツちょうだい!」
 
 
「い いちまんバーツ!! 給料もらうまで待って!」
 
 
「私を愛してないの! 1万バーツぐらい渡しなさい!」
 
 
タカハシがハッピー商事で働きだしてから1週間で数回もこんなやり取りをミンちゃんとしている。
 
渋々1万バーツを払うタカハシは今月末に給料がもらえないことをまだ知らない。
 
 
月末に給料がもらえない理由は今月は10日から働きだしたので1か月に満たないから。
そして試用期間中だから。
使えないヤツだから。
 
 
ミンちゃんがタカハシに対しては【日本人だから数百万バーツは持っているはずだから1万バーツぐらいはすぐに渡せる】はずだと思っている。
 
特に悪気は無い。
 
田舎のタイ人には相手が理解できるようにきちんと説明してあげないとねタイ語で。
 

不動戦士タカハシ 4話

第4話 初出勤



書店で購入した日系企業や日本人向けサービスを行っているお店や会社の電話帳であるハロータイランドを見て採用されたハッピー商事のオフィスがBTSのサラデーン駅前のビルにあることを突きとめた。


出勤先が判明し、タイでの生活の目途が立ったと判断したタカハシは昨日のうちに日本で勤めている宅配業者には退職する旨を電話で知らせた。

急な退職を伝えられた上司は

本来なら一度帰国して退職手続き・住所の海外移転手続き、そして国民年金などの手続きをすべきであるが、身重のミンちゃんが心配なので無視している。


実際のところ、妊娠しているミンちゃんのそばにタカハシがいる必要性は無い。
引き続きタカハシが日本で働き続ける方が効率的なのだが、ミンちゃんが心配なタカハシは給料の金額も決まっていない会社へ転職してしまった。

ちなみにミンちゃんには実家のチャイヤプーンに娘がいて初産では無い。



「二人で住むならこんな狭い部屋はイヤ! 私のこと愛してないの!」


タカハシは家賃9000バーツのラチャダーのアパートからウォンウェンヤイの15000バーツ(2DK)のアパートに引っ越すことになった。



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タカハシの出勤初日。
社長の山川に聞いた担当者である女性社員の【ヌッサリン】の名前を憶えていなかったタカハシは受付嬢にどう説明して良いか分からずにフリーズしていた。

ミンちゃんに説明してもらおうと電話をかけて通訳を求めるが、状況を理解していない田舎出身のカラオケ嬢に通訳させても解決の糸口が見つからないタカハシ。


運良くハッピー商事に現地採用日本人として働く日本人女性が外出から戻ってきたので【ヌッサリン】の元までたどり着くことが出来た。
この時点ですでに11時。


ヌッサリンからはたいした説明も無かった。
面倒そうに「13時30分に外に出るからついて来い」とだけ言われて放置された。


11時45分になってオフィスには受付嬢を残して誰もいなくなった。




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続きは連休明けになります。



不動戦士タカハシ 3話

第3話 タイ移住



タイ語も英語も出来なくて職歴はドライバーだけねぇ。
はっきり言いますがあなたに紹介出来る仕事はありません。
あなたはタイに来てはいけないタイプの人なので引き続き日本で働くことをお勧めします。」


タイで仕事を探そうと人材紹介会社を何社かまわったが、タカハシに仕事紹介してくれるところは無かった。

人材紹介会社で勧められたのは日本語フリーペーパーの求人情報に直接応募することだった。



ミンちゃんをタイで養っていくためにも、何としてもタイで仕事を得なければならない。
フリーペーパーの求人欄を見ているとタカハシでも出来そうな仕事があった。


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日本人営業募集
ハッピー商事では日本人営業を募集しています。
タイ語・英語不問で不動産業界での経験も不問
給料4万バーツから

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タイ語も経験も不問の求人広告を見つけた。
タカハシはすぐに電話をかける。


「はい!!!ハッピー商事山川でございます!!!」


「あの~ フリーペーパーをみたのですが・・・」


「はい!!!何なりとお申し付けください!!コンドミニアムをお探しですか?」


「・・・・すみません。求人広告をみたのですが・・・」


「ちっ! 入社希望の人ね。 で、いつから出社できるの?」


「え?いきなり入社ですか? 面接とか・・・」


「だ・か・ら! いつから出社できるのか聞いてるの!」


「あ、あの準備とかあるので・・・明後日からから出社します」


「明後日ねえ。 まあ良いけど。9時に出社したらヌッサリンという社員がいるからその子に聞いて! じゃあ」



いきなり採用が決まって戸惑うタカハシ。
明後日の出社先も分からないし、言われたタイ人スタッフの名前も覚えていない。

明後日から出社しろと言われても、出社する場所が分からないタカハシだった。

ネットでハッピー商事の場所を知れべれば良いのだが、そこまで機転の利かないタカハシは再度フリーペーパーの求人広告の電話番号に電話をして聞く事にした。



「はい!!!ハッピー商事山川でございます!!!」


「あのすみません。会社の場所を教えていただきたいのですが・・・」


「弊社にお越しになるのですか? わざわざお越しいただかなくてもこちらからお伺いさせていただきます!!!」


「・・・・すみません。先ほど入社希望でお電話したタカハシです。」


「はぁー。 こっちは忙しいんだから困るんだよ!! 会社のウェブサイトがあるからそこで調べろよ!!
 
・・・は? ウェブサイトのURL???

そんなの周りの誰かに聞け!!!」



出勤する場所はまだ分からないが就職先が決まったが、ハッピー商事の業務内容と自分の仕事内容は全く分からないタカハシであった。




不動戦士タカハシ 2話


第2話 妊娠



「子供が出来たみたい。すぐに来て!」


ミンちゃんからのLINEで妊娠検査薬の写真とボイスメッセージが送られてきた。
驚いたタカハシではあるが、思い当たるフシは山ほどあった。



ミンちゃんとのセックスの際にはコンドームを1回も付けたことがなかったのだ。
もちろん初めてカラオケ店からミンちゃんを連れだした日ですら。


タカハシはコンドームの着用を要求しないのはミンちゃんが自分のことを愛しているからと解釈している。

コンドームの着用を要求しなかったミンちゃんの真意は別として妊娠したのだから責任を取らなければならない。



「有給休暇ってのは事前に周囲のシフトと調整してから取得するもんだって何回言ったら分かるんだ?」


配車担当の社員に嫌味を言われながらタカハシは急遽休みを取ってタイに向かった。


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「ミンちゃん。子供と一緒に日本で暮らそう。」



「友達のいない日本なんて嫌よ!私のこと愛してないの!」




ミンちゃんはタカハシによく【私のこと愛してないの!】と言う。
元タニヤ嬢のミンちゃんは片言の日本語を話すことが出来るがこのフレーズはタイ語ไม่รักฉันหรือ(マイラックチャンロー?)言う。


直訳すれば「私のこと愛してないの!」ではあるがこの言葉に込められた意味は「愛してるなら私の言う事を聞きなさい」である。

「私のこと愛してないの!」と言われれば頑張ってミンちゃんを愛していることを分かってもらおうとするタカハシ。


日本の仕事を辞めてタイで就職先を探すことを決意したタカハシであった。


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ここでタカハシのスペックを紹介しておく。


タカハシ 33歳
高校の普通科を卒業してから15年間大手宅配業者のドライバーとして働いている。

身長155cm 体重60㎏
身長が低く小太りで冴えない。
容姿も童顔なので遠くから見ると中学生に見られる。

ロールプレイングゲーム風のステータスは以下の通り

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名前:タカハシ
種族:人間(日本人)
レベル:3
たいりょく:4
ちから:2
すばやさ:5
あたまのよさ:2
うんのよさ:2
とくぎ:小型トラックの運転
タイ語:挨拶程度
英語:不可
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要は背が低くて馬鹿で運の悪い男。
それがタカハシ。

そんなタカハシが次回、タイで仕事を探す。



不動戦士タカハシ 1話

不動戦士タカハシ 


第1話 プロローグ



大きな荷物を持って1時間以上行列に並んでいた。

そこは必要以上にいつも込み合っている格安航空会社のチェックインカウンター。

周囲の客のほとんどが日本のお土産を抱えたタイ人達だ。
日本人であるタカハシも同じように日本のお菓子や化粧品を大量に抱えている。


「・・・・・早くミンちゃんに会いたいな。」

1時間以上待っているが行列はあまり進まない。
しかしタカハシはイラつくでもなく、どちらかと言えば笑みを浮かべながら行列に並んでいる。


◇◇◇◇◇◇◇◇


タカハシは大手宅配業者のドライバー。
最近は3か月に1回のペースでバンコクに訪問するようになった。


タカハシは33歳独身。
彼女いない歴=年齢。
初めて出来た彼女・・・タカハシは彼女だと思っているが、実際には専属契約している元タニヤ譲・・・のミンちゃんに会いにバンコクに通っている。


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早朝ドンムアン空港に降り立ったタカハシはそのまま空港のベンチに座って昼まで時間を潰す。

すぐにミンちゃんのために借りているアパートに向かわないのは、昼まで寝ている彼女を起さないため。

朝の6時に到着してから12時までの6時間!!!も空港で過ごしてからアパートに向かった。



「あたま痛ーい!!!」


3か月振りに会ったタカハシにミンちゃんが浴びせた第一声は(昨日は飲みすぎて)頭痛がするから頭痛薬を買って来いであった。

ミンちゃんの部屋に上がらないまま近所のコンビニで頭痛薬を買ってきたタカハシ。

しかしすぐさまコンビニに引き返すことになった。

何故なら水を買ってなかったから。


◇◇◇◇◇◇◇◇


すぐに3か月振りのセックスをしたいタカハシだったが、頭痛薬を飲んだミンちゃんは寝てしまった。

ミンちゃんが起きるまで部屋の掃除をしながら待つ。

夕方になってようやく目を覚ましたミンちゃんの要求でシーフードレストランに行った。

ミンちゃんがオーダーした食べきれないほどのシーフードを食べつつビールを飲む。

夜便の飛行機であまり寝れなかったタカハシは力尽きてミンちゃんのアパートにひとり戻って寝た。

ミンちゃんは友達と引き続き飲みに出かけたらしい。
 




翌日の昼。
再びミンちゃんに命令されて下痢の薬を買いに行くタカハシ。

しかしタイ語の出来ないタカハシは近所の薬局では薬を買えなかった。
仕方が無いのでタクシーでわざわざアソークの日本人のいる薬屋まで出かけて買ってきた。


そんな努力の末にミンちゃんに浴びせられた言葉は

「どうしてアナタは薬と一緒に水を買ってこないのよ!」




学ばない男。
カラオケ嬢の尻に敷かれる男。

それが【タカハシ】
 
 

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タカハシはこんな感じ

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新シリーズです。
今回は7話完結の予定です。
 
 

腹上死して生まれ変わってタイ人に123話

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第123話 復讐(最終回)



2015年7月。
ユウイチ】が無事に福井県にある下請け会社の営業部長として出向したことを確認。
俺は引き続きタイ工場長兼現地法人代表を任されている。

 
 
ユウイチ】のように俺に対して反抗的な駐在員もいなくなり、タイの洪水以降は俺より年上のタイ人従業員やマネジャー達もすっかり従順だ。

これから10年間は昇進や転勤を断り続けてタイ工場長として居座ってやる。
 


給料以外に賃貸収入が毎月20万バーツある。
早めに引退して50歳からはナムワーンと二人で海外旅行三昧しよう。
 

子供はもう無理だろうから引退生活をふたりで楽しみたい。

 

 

帰りの車の後部座席でそう考えていた。
 


◇◇◇◇◇◇◇◇
 
 

夜遅くに自宅に到着。
車を降りて門を開け、庭を通って玄関に向かおうとした 

その時。


突然庭の茂みから黒い大きなものが俺に向かって来る。


とっさに避けようと体をよじるが間に合わない。

黒いものが俺にぶつかる。
その瞬間に腹に感じる冷たい感触。

何が起こったか分からない。

腹の冷たい感触が熱い痛みに変化し、我に返った。


刃物で刺された??

とりあえず逃げよう。


一度離れた黒いかたまりが再び俺に向かってきた。


慌てて逃げる俺の背中に再び冷たい感触が走る。


「アッタポン死ね!」


背中からかけられた声。

聞いたことのある声だ。

・・・黒いかたまりは【ユウイチ】だろう。

ユウイチ】はもう一度俺に死ねと捨て台詞のように呟いてすぐに去っていった。



最初は冷たかった背中とお腹が焼けるように熱くなってきた。

必死に刺された腹を押さえるが、血がどんどん流れ出ている。
暗くてよく見えないがたぶんそこら中が血まみれだと思う。


「本気で殺しに来るのかよ!」


思えば俺は【ユウイチ】に対して少しやりすぎたと思う。
部下に辞令を渡させてしかもビデオ撮影もさせたしな。

それにしても日本人駐在員のくせにタイ人の俺を本当に殺しに来るとは。


やばい。病院に行かなきゃ。

起き上がれもしない。


意識が朦朧としてきた。


とりあえずナムワーンを呼ぼう。

でも声が出ない。



あいつは旦那が帰ってきたのに出迎えもしないなあ。

ナムワーン出てこいよ。

 

 
それにしてもナムワーンには悪いことをしたな。

新婚なのに家を建てるのに2年もかかったし、その後俺はひとりでインドに転勤だし。


ヌーイと浮気して悪かった。
後でもう一回謝ろう。


遅いなあ。
ナムワーンが出てこない。

 
 
たぶん俺・・・もう死ぬわ。



どうせ死ぬならこんな冷たい床の上じゃなくてナムワーンの腹の上で死にたかったな。


でも腹の上で死んだらナムワーンに迷惑か。


 
ナムワーンだったら許してくれるだろうな・・・


 
あいつは俺には優しいから・・・


 
 
ナムワーン。生まれ変わったらまた・・・・・
 
 
 
 
 
 
目の前に真っ白な世界が広がって行く。


 
 
 
 
 
 
 
 
・・・・・・・そろそろ意識が無くなって行くかと思ったが、

 
 
 
思ったより長い。

 
 

どこかに吸い込まれるような感覚の後で意識がなくなった。
 
 
 
 
&‘*&$#E! &‘*&$#E!!!
 
 
 
 
何かに呼ばれて目が覚めた。
 
 
また生まれ変わったのか?
 
 
目の前のおばさんは黒い。真っ黒だ。
 
しかもカレー臭い。
 
 
 
これはもしかして・・・・
 
 
 
【完】




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あとがき


今回は予定よりも長くなってしまいました。
にもかかわらず長期間にわたって読んでいただいてありがとうございます。


この主人公である【ユウイチ】は実在の人物をモデルにしており、彼は今も元気に部下や同僚に嫌な気持ちをさせながらタイで働いています。

そんな【ユウイチ】に何度も不快な思いをさせられたので、主人公の【アット】には多くの困難を与えまくろうと思って書き始めました。

しかし途中で【アット】に愛着が出てしまって何故かサクセスストーリーっぽくなってしまいました。

モデルとなった【ユウイチ】がインドに転勤しますように。
 
 
 
 
 
タイとバービアを想いながらエッセイのようなものを書くつもりだったブログでしたが、いつのまにか小説のようなものになってしまいました。

これまでタイで出会った変な人たちをモデルにあと何人か書いてみたいと思います。
 
 
 
次回作
【不動戦士タカハシ】
 
宜しくお願いいたします。
 
 
わんわん

腹上死して生まれ変わってタイ人に122話

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第122話 リベート


 
タイに戻った俺は【ユウイチ】がインドに出発してからすぐにヤツがリベートを受け取っていた会社の社長達を呼び出す。


リベートを支払った社名は調べなくても俺が知っている。

計装機器メーカー、ソフトウエアメーカー、電子機器メーカーなどのタイ法人の社長を有無を言わせず工場に呼びつけた。

 


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俺はタイの工場長のアットだ。

お前ら俺がタイ人だからといって下手な対応したら世界中でお前らの会社を出入り禁止にするからな!
 
返答によっては出入り禁止だけでなくウチの会社と敵対することになるから気を付けて答えろ!
 


これだけ言っても信じないヤツは念のために本社の専務取締役 製造本部長から一筆もらってるから見ろ!


◇◇◇◇◇◇◇◇


タイ工場計装グループリーダー【ユウイチ】の不正調査に関して
タイ工場長アッタポンに全権を与える。

アッタポンの意向は製造本部の意向である。


専務取締役 製造本部長 村上 功


◇◇◇◇◇◇◇◇


お前ら読んだか?
 
じゃあ この中で【ユウイチ】に請負金額に応じたリベートを払ったことが無いヤツ! 

手を上げろ!


よし!
誰も手を上げないということは、お前ら全員リベートを払ったことを認めるということで良いんだな?


すんなり認めるのなら話が早い。
 
お前らが支払ったリベートの金額を証明出来たら、リベート支払い分の10%を開発協力金の名目で俺が支払ってやる。

ユウイチの個人口座の振込記録、接待の領収書ならユウイチが参加した記録、その他なんでも対象が【ユウイチ】だと確認できる証拠を持ってこい。


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10%とは言え、これまで【ユウイチ】に支払った金が帰って来る。
製造本部長名での不正調査が行われているユウイチ】に義理立てするヤツはいないだろう。

 


すぐに呼び出した業者は次々と【ユウイチ】への振り込み記録やらヤツが飲食店の個室でリベートの要求している会話を録音したデータやら持ってきた。


業者から集めた証拠を集計したところ、【ユウイチ】に渡されたリベート総額は1000万バーツ!!!
俺が前世で10年間で得たリベート額より多い!

俺の前世ではリベート率は発注金額の2.5%だった。
今の【ユウイチ】はなんと5%!!!

そんなに無理して金を集めてどうするんだ?
 
俺の前世では工場長や製造部長を接待しまくったが俺は嫌われているので一度も接待されてない。
 
ヤツは集めた金を何に使ったんだ?

これらのデータを村上専務に送り、彼の処分を検討してもらった。



◇◇◇◇◇◇◇◇



本社にて決定した【ユウイチ】への処分は新事業準備室への転勤。

【新事業準備室】
新しい事業を始める部署のような名前だがここは出向社員の待機部屋であり、通称【準備室】と呼ばれている。

本社のビルの裏にある社有用の駐車場に置かれたプレハブ小屋の中にその部署はあった。
 
【新事業準備室】に異動となると自分の出向先が決まるまでそのプレハブ小屋でなにもしないで待つだけ。

社有車で出かける社員達に同情と蔑みの目で見られながら、夏は暑く、冬は寒いプレハブ小屋で数か月過ごす。
 
遅刻・欠勤・有給取得は認められず、自己都合退職を促す様々なイベントに耐えながら。

 

 
◇◇◇◇◇◇◇◇



ユウイチ】に準備室への異動を命じる辞令が俺のもとに届いた。
 
タイの工場長か製造部長の俺が直接本人に渡すべきなのだろうが、処分に逆上した【ユウイチ】に襲われるかもしれない。


ナンバーツーの製造部長に頼んでも良いが、これまでタイ人を蔑んできた【ユウイチ】にはタイ人に引導を渡せるのが相応しい。
 
 
俺は1週間の有給休暇を取得し、俺が休みに入ってから計装グループのタイ人チーフに辞令を渡す役目を命じた。
 
辞令を渡したときの【ユウイチ】のリアクションを見たかったので、会議室にビデをを設置させ、辞令の内容を読めないタイ人スタッフが辞令を渡すところを撮影するよう厳命した。
 
 
◇◇◇◇◇◇◇◇
 
 
ユウイチ】が異動を知るタイミングで俺はナムワーンと二人でモルジブ諸島に旅行に行く。
 
 
結婚式から8年。
 
初めて二人で行く海外旅行だ。
 
高級コテージに泊まってナムワーンとゆっくりしよう。

 

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「アッタポン! ぶっ殺してやる!」
 
 
モルジブから戻ってから頼んでいたビデオを見せてもらった。

 
ビデオの撮影者に襲い掛かる【ユウイチ】が映っていた。
 
お前は試合直後のプロレスラーか?
 
 
素敵な捨て台詞を残して【ユウイチ】は無事に【準備室】送りになった。
 
 
ちなみに俺に対しての会社からの処分は全く無かった。