帰国したタイの変な日本人

バービアを愛した中年デブの元タイ沈没者がタイを想ってタイを舞台にした小説のようなものを書いてます。

不動戦士タカハシ 6話

第6話 お客様第一



ハッピー商事が何をしている会社なのか分からないまま採用されたタカハシであったが入社2週間目にして業務内容が日本人駐在員向けのコンドミニアム賃貸仲介であることを理解した。

社長の山川はほとんど外出しており、たまに事務所にいても電話の対応や仕事の指示に忙しくほとんど会話することは無かった。
社長の指示や仕事内容はすべてヌッサリンを通じて伝えられた。


タカハシの仕事は与えられた携帯電話にかかってくる苦情への対応。


「蛍光灯の玉が切れたからすぐに交換に来なさい!!」


蛍光灯の玉ぐらいは入居者が自分で交換すれば良いのだが、言われたままタカハシはシーロムの事務所から高架鉄道に乗ってトンローのコンドミニアムまで向かった。


「遅かったじゃない!!この蛍光灯すぐに取り換えて!!もうすぐお茶会に出ないといけないんだから!!」


駐在員の奥様に怒られながらすぐに蛍光灯を買いに走るタカハシ。
現物を取り外して持っていかなかったのでサイズを間違えてしまい、時間がかかってさらに怒られてしまった。

蛍光灯を自腹で2本分交換した上で帰り際に「この愚図!」と罵声を浴びせられたタカハシが帰ろうとするとまた苦情の電話があった。


「どうしてこのコンドミニアムはゴミ捨て場所が遠いのよ!」


近くなので苦情の電話があったコンドミニアムに向かう。
そのコンドミニアムはゴミ捨て場は別棟にあり、ゴミを捨てるためには1階までエレベーターで降りてから別棟まで歩かなければならなかった。


「あなた不動産屋なんだからゴミ捨てなんとかしなさい!」


翌朝毎週2回。タカハシは毎朝、通勤時にシーロムを通り越してトンローまで向かい、そこのコンドミニアムでゴミ袋を運ばされることになった。


そもそも「ノーと言えない男」であったタカハシは社長の山川からも「お客様に逆らうな」ときつく言われていたので早朝の週2回のゴミ捨てが日課になった。


そこまでするタカハシも馬鹿だが、日本人にゴミ捨てさせる駐在員妻も、海外に来て調子に乗りすぎだと思う。
 
ホテルの部屋ならわかるが、アパートの部屋の電灯の球が切れれば自分で買いに行って自分で交換するのは当たり前。
 
日本では自分で交換するのは常識でも海外に出て『海外駐在員の妻』という立場になって会社から与えられた運転手付きの車で買い物に行く環境下で勘違いする日本人が多かった。
 
最近では少なくなったが、この当時は『勘違い駐在員妻』が多く、その矛先をタイ人だけでなくサービス業で働く日本人にも向けられていた。
 
 
こんな『勘違い駐在員妻』の中でも酷いのもいた。


「あなた!ハッピー商事の人でしょ! 隣のビルの工事の音がうるさいの!何とかしなさい!」


「すみません。どこにお住いのどちら様でしょうか?」


「若宮よ!わ・か・み・や!」


「お住まいはどちらのコンドミニアムでしょうか?」


苦情の電話であっても自分の名前と住所はすんなり伝えてくれる。
しかしこの駐妻ババアは違った。


「わ・か・み・や! 何でわからないの! サミットウエイ病院の近くのわかみや!」


コンドミニアムの名前は何でしょう?」


「あなた何年バンコクにいるの!そんなことも分からないの!」


バンコクに移住して1か月未満のタカハシでなくても、この説明ではわからない。
「サミットウエイ病院」ではなく恐らく「サミティベート病院」のことであろうが、この周辺では外国人向けのコンドミニアムは多い。


「今すぐ工事をやめさせなさい!!!」と怒り狂った勘違いババア。
 
ビルの建設工事を止める権限はババアには無い。
うるさいと苦情を言うことは可能なのだが、結局対応はヌッサリンが対応した。
 
ヌッサリンが工事現場に苦情を言ったが、騒音が大きな作業はあと2日だけなので勘弁してほしいと伝えただけだったが、ヌッサリンが言うとすんなり納得した。
 
このように「勘違い日本人」の中には日本人には理不尽なことを言えてもタイ人には言えないヤツも多い。
 
うまく対応出来なかったタカハシはヌッサリンに一層蔑まれるようになるが、かといってタカハシが悪いというわけでは無い。