帰国したタイの変な日本人

バービアを愛した中年デブの元タイ沈没者がタイを想ってタイを舞台にした小説のようなものを書いてます。

腹上死して生まれ変わってタイ人に112話


「Hey you !  Come here !  Where is Japanese staff?  You! Come here!」

 
 
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第112話 アシスタント北川

 


2009年2月。
いつものように俺はインド人作業員に交じって仕事をしていると、偉そうな態度の若い日本人男性が俺に声をかけてきた。
 


「おいコラ! そこのインド人! 日本人はどこだ?」


俺は工場では「ミスター」とか「サー」とか呼ばれている。
英語では職場内の敬語表現は日本語ほど顕著では無いにしても工場内で俺に向かって「Hey You!(おいコラ)」という日本人は今まで誰もいなかった。
 
最初は慣れない呼ばれ方に驚いた。
しかもインド人と間違えられたので少しムッとした。

しかし冷静に考えてみると、駐在員で工場ナンバーツーの製造部長が現地スタッフと一緒になって機械の調子を見て体中グリスまみれにはならない。
しかもそれがタイ人なのだから勘違いされても仕方がないだろう。
 
 
さらに『俺に偉そうに声をかけた若い男性はお得意様の会社の御曹司』ということもあり得る。

人間謙虚にしなければ、どこに地雷が埋まっているか分からない。
だから俺は丁重に対応する。
 



「申し訳ありませんが工場長の田坂と機械リーダーの日本人は現在ビザの手続きで外出中でここには居ません。」
 
 

「は? いい加減なことを言うな! お前は日本語通訳か? 製造部長の日本人が現場にいるはずだろ? すぐに呼んで来い!」

 


「はい。私が製造部長のアッタポンです。」

 


「馬鹿かお前! ローカル製造部長じゃなくて日本人の製造部長!に・ほ・ん・じ・ん! 日本人の製造部長呼んで来い!」

 


「良くわかりませんが、製造部長が日本人で無くて申し訳ございません。 ところでお客様はどちらの会社からお越しになられたのでしょうか?」



「は? 面倒くさいヤツだな! 俺は日本の本社技術部から来たんだよ!!!ぎ・じゅ・つ・ぶ!!!」

 

ほー。こういつは本社の技術部のヤツか。
入社2-3年目ぐらいだろうか?

コイツに俺がこの工場の製造部長だと説明してもなかなか理解してくれないだろうな。


「おい! いい加減に日本人探して呼んで来いよ! 本当に使えない通訳だな!」


コイツにどう対応しようか迷っているところに俺が技術部時代にアシスタントをしてくれていた舞野くんが来た。


「おーい 舞野くん! 久しぶり!」


「アットさん ご無沙汰しております。」


「舞野くん。こちらのお客様に俺がここの製造部長だって教えてあげて!」


「アットさん。こちらのお客様って北川のことですか?」

 
舞野君の俺に対する丁重な態度に驚く北川。
 
 
「え? え? こ・・この人が製造部長・・・さん?」


「北川。この人が製造部長のアットさんだ。技術部で伝説になってる人だ知ってるだろ?
【神の嗅覚】【酒井社長のブレーン】のアットさん。」
 

さっきまで威勢の良かった北川はだんだん青ざめていく。
 
 
「すみません!!! 申し訳ございませんでした!!!」


「若い人は元気があって良いよな。 舞野君のアシスタントならこいつも東京大学卒?」


「いや こいつは違います。」


「東大じゃないのに製造部長にこの態度とは・・・かなり大物だな。」


「申し訳ございません。本当に申し訳ございません。」

 

「舞野君。工場訪問するときはいつも工場三役(工場長、製造部長、機械リーダー)の名前と経歴チェックするように俺は教えたよな?」


「北川! もしかしてアットさんがここにいるのを調べてなかったのか!」

 
「すみません!!!本当にすみません!!!」
 
 

 
俺にデカイ態度をとった北川は恐縮しているが、東大卒でもないのに先輩に対して大柄な態度は良くないと思う。
 

 
そうだ!ちょうどアシスタントが欲しかったところだ。
 

 

 
早速、本社技術部長の加藤さんに電話してみる。
 

 

 
「もしもし?加藤部長ですか? インドのアットです。
 
お疲れ様です。
 
はい? いえいえ 困った時はお互い様です。
 

 
それでね。今日舞野君と一緒にインドに来ている北川がいるでしょ?
 
コイツは結構見どころのあるヤツなのでしばらくインドに置いて教育したいんですよ。
 

 
はい。 帰国させないでこのままインド残留です。 無期限で。
 
村上本部長には私から了解を得ておきます。 はい。
 
ありがとうございます。 それじゃあ。」
 

 



 
俺は技術部を離れて長いが、未だに未解決の技術的な課題についてアドバイスを求められている。
 
たまに有効なアドバイスをしているので加藤部長も俺の頼みは断れないと思う。
 

 
何か文句を言いたそうな北川を軽く無視して次は村上アジア統括本部長に電話をかける。
 

 

 
「もしもし お疲れ様ですインドのアットです。 インドですか?
 
大分マシになってきましたがまだまだですよ。
 

 
それで今日お電話したのはですね 
 
技術部の若手の北川が今インドに来ているんですが、こいつは見どころがあります! 
 

 
私の嗅覚を伝授できるのはこいつだけです。 
 
このまま北川をインドに置いて教育していいですか? 
 

 
はい。 すでに加藤部長の許可はすでにもらってます。  
 
ありがとうございます。 じゃ決定という事で。 」
 

 
 
 
茫然としている北川。
 
 
 
 
 
「おい 北川! インド転勤が決定したからな!」
 

 



 
北川は舞野君に助けを求めているが、これは本部長が承認した正式な人事だ。
 
すぐに辞令も届く。
 

 

 
「おい! 北川! なにぼーっと立ってんだ? すぐに着替えて手伝え!」
 

 

 
「舞野君。それじゃあ宜しく!」
 

 

 
ということで活きの良いアシスタントを手に入れた。