生産機械メーカーのタイ法人に勤務するユウイチは泥酔しながらも若いゴーゴー嬢をホテルに連れ込み行為の最中に突然死してしまう。
死んだはずのユウイチは目覚めたとき、タイ人中学生の【アット】になっていた。
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第22話 日本でのアルバイト生活
「アット君! タイって言葉は何語を話すの? 英語?」
「タイってどこ?」
「普段は何を食べるの? パン?」
タイから日本に到着した翌日。
別府青山高校の2年生のクラスの一員となったアットは休み時間になると物珍しそうにクラスメイトから質問攻めにされた。
タイでは英語やスペイン語などのメジャー言語が話されていると思っているのであろうか?
世界の国で国の名前と同じの固有言語を使用する国が大多数であり一部の植民地化された国以外は固有の言語を持っている。
それに「タイってどこ?」だと?
タイ人に転生してからパンなど食いたくても一度も食ってないぞ!
などと言いたくなったが、この当時の日本、特に田舎の大分県では外国人は今ほどは多くない。
外国人に対して失礼な質問をぶつけられ続けた。
ただ外国人のことをよく知らないわりに日本語を話す外国人にあまり違和感を持っていないようだ。
俺はクラスメイトに対して、今までのわざとらしいカタコト風な日本語をやめて普通に日本語を話しているが特に驚かれることは無かった。
普通の留学生ならクラブ活動など参加して交流を深めるのだが、俺は1995年の超円高が始まるまでに1円でも多くお金を稼ぎたい。
クラスメイトには貧乏な国から来た貧乏な学生が大学進学のためにお金を稼がなければならないことを説明し、アルバイト先を斡旋してくれるようにお願いした。
日本でやろうと決めていた事は書道の習得であった。
元日本人のアットが書く日本語は普通の日本人のものであり、外国人が書いたものとしては違和感がありすぎる。
そこで思いついたのが書道の習得である。
書道学校に通って社会人の初段の認定証を手に入れれば日本に留学して書道に没頭した結果、日本人並みに文字が書けるようになった・・・というシナリオが自然だと考えた。
毎月支払う月謝と習っている時間がもったいないが、折角日本に来たのだから書道を習うことにする。
15人で満席になる程度の小規模の中華料理屋では厨房に居るオヤジとオヤジの調理補助とレジを打つ奥さんで営業していた。
その夫婦に加えてホールスタッフとしてオーダーを取ったり食事を運んだり皿洗いといった仕事が俺の仕事であった。
書道教室に通う日以外の平日は中華料理屋でアルバイトを毎日3時間、土日は8時間働く。
留学生ビザで来日した外国人留学生は、資格外活動許可を得ることで1か月に60時間(当時)の労働だけが認められていたが、小規模な飲食店では厳しく制限されない。
成績も良く、毎週2回自主的に書道教室にも通っていた俺は学校や先生にアルバイトの事を問題視されていなかった。
逆に大学に行くために自分で働くのは今どきの日本人に見習わせてやりたいと逆に応援されるほどであった。
高校の同級生や先生が頻繁に俺が働く中華料理屋に来ることになり、店のオヤジや奥さんからの俺の評価も上がる。
ホストファミリー宅やアルバイト先で無料で食事ができるため、タイから持ってきたもち米やインスタントラーメンは不要になり(元から食べたくも無かったが)福岡のアジア食材店に売ると結構な金額で買い取ってもらえた。
夏休みは中華料理屋のアルバイトに加えて建設現場で資材を運ぶ仕事も掛け持ちする。
こうして日本人との交流を最小限に抑えることでアットは10か月間で120万円の貯金に成功した。
この日本円を現金を3年後まで現金で所持しておくのは危ないため、30万円だけもちかえり、残りの90万円は3年定期の定期預金にしてこのまま銀行に預金しておく。
書道教室でもなんとか初段の合格証書を手に入れてタイへの帰国を迎える。
日本での滞在中は特に親しい友人も作らず、恋人も居なかった。
せっかく日本に来たのだから日本の女子高校生とセックスは無理でもデートぐらいはしても良かったが、前世も含めて10年以上タイ人としかセックスしていなかったので日本人の女子高生相手だと恥ずかしくてこちらから話しかけられない。
足が太い女子高生には興味が無い。
モッドより可愛い娘もいないし。
結局日本滞在期間中に一番仲良くなったのは中華料理屋のオヤジであった。
俺が帰るときには餞別にと10万円くれるほどであった。その10万円はそのまま定期預金で眠ることになるのは少し罪悪感があった。
そのオヤジには3年後に戻ってくるからその時は1週間でも働かせてほしいとお願いしておく。
10か月間の日本生活はアルバイトに明け暮れた生活となったが、こ
れから起こるであろう円高とバーツ危機で儲けるために1円でも元手を作ることしか頭になかった。
時給は600円であったが為替でうまく運用すれば3倍になる。
そう思えば節約生活とアルバイト生活に悔いは無く、充実感しかないアットであった。