帰国したタイの変な日本人

バービアを愛した中年デブの元タイ沈没者がタイを想ってタイを舞台にした小説のようなものを書いてます。

コールセンターの⑨ 15話

「タイのコールセンター」
それは日本人でさえあれば年齢・学歴・経験・語学力を問わず誰でも就くことのできる仕事。
経費削減のために日本の労働法を遵守する必要も無く低賃金で雇用できるタイで日本人を低賃金で雇いコールセンター業務を行っている。
そんなタイのコールセンターで働く一人の男性の物語。




第15話 現実逃避



毎月の生活費の赤字を解決すべく起業したシパケイは以前働いていた特殊車両の製造会社から部品加工の仕事をもらうことができた。

フィリップさんに依頼し、3か月もかけて製作した部品を日本に発送したが、思いもよらぬ返答が日本よりあった。


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シパケイくん。折角送ってもらった部材だけど使えないよ。


指定の材質と違う

サイズも違う

穴の位置も違う


図面と出来上がった部品が合っているか調べたけど・・・逆に図面と合ってる部分を探すのが難しいぐらいだったね。


よくもまぁ これだけ間違えたなぁ。 

元々期待してなかったけど、納期が3か月以上かかってこの部品を送られても困るなあ。


図面と完成品をチェック・・・というか図面見て作った?

シパケイくんチェックって意味わかる?

わからなくてもいいか。

悪いけどもう頼まないから。



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日本語で書かれた図面を訳さずにフィリップさんにそのまま丸投げし、完成品のチェックもしないで日本に送った馬鹿なシパケイ。

これまで50万バーツ以上費やして、全く売り上げが上がる目途が立たなかった。



そのままシパケイは現実逃避して毎晩ビリヤードに熱中するのだった。

その間もフィリップさんに給料と事務所家賃を請求されながら。


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そして遂に年末の年間トーナメントの日がやってきた!

事業の失敗を乗り越えて(?)挑んだトーナメント。

シパケイのショットは冴えわたり次々と的球がポケットに吸い込まれていく。

手玉はまるで意思を持っているかのように狙った場所にぴったり止った。

そんなシパケイの気合が乗り移ったかのようにナンシーもミス無く突き切った結果、二人は念願の混合ダブルスの年間トーナメントチャンピオンとなった。


前日のシングル優勝に加えて合計優勝賞金の40,000バーツを手に入れた僕たちは明け方まで飲んだ。


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ワタシの疑いが確信に変わった。

間違いない。ワタシの中に愛するシパケイとの新しい命が宿っている。

年末の年間トーナメントの日に違いない。 

その日は久しぶりにシパケイと愛し合った。



シャイなシパケイは・・・酔っぱらった日しか してくれない。

その日はワタシも酔っぱらっていたから用意していたゴムを付けてもらうのを忘れていた。



ワタシが妊娠したことを伝えると・・・シパケイが困るかもしれない。

でも愛するシパケイの子供が産みたい。


勇気を出してシパケイに打ち明けよう。




シパケイは 「そうか」 と言っただけ。


少し不安になったワタシにシパケイは言ってくれた。 


結婚しようと。


今日はワタシが生きてきて一番嬉しかった。



何故かしら。こんなに嬉しいのに涙が止まらない。



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ヤバイ。


本当にヤバイ。


まさかナンシーに子供が出来たとは。

間違いない覚えはある。あの日・・・というか毎回酔った勢いでセックスするからゴムしてないから妊娠するよな。


ナンシーとずっと一緒に暮らす気持ちは無いが、子供に罪は無い。


僕に出来ることはせめて 生まれてくる子供に日本国籍を与えて日本に暮らす選択肢を作ってあげることだ。


恐らくナンシーと婚姻関係になる必要があるので、結婚手続きについて調べるようにお願いした。


ナンシーは生まれてくる子供に日本国籍を与えることがよっぽど嬉しかったのか、泣き出してしまった。



ただでさえゴリラに見える顔が泣き出すと・・・オラウータンに見えてきた。


こんなヤツと子供を作ったなんて・・・ちょっと反省した。