帰国したタイの変な日本人

バービアを愛した中年デブの元タイ沈没者がタイを想ってタイを舞台にした小説のようなものを書いてます。

コールセンターの⑨ 14話

「タイのコールセンター」
それは日本人でさえあれば年齢・学歴・経験・語学力を問わず誰でも就くことのできる仕事。
経費削減のために日本の労働法を遵守する必要も無く低賃金で雇用できるタイで日本人を低賃金で雇いコールセンター業務を行っている。
そんなタイのコールセンターで働く一人の男性の物語。




第14話 丸投げ起業




バンコクの日本人社会においてコールセンターのオペレーターという職業は無職の沈没者よりも蔑まれている現状。
そしてナンシーを養うことで赤字になっている状態に悩んでいたシパケイはシンガポール人の友人であるフィリップさんに相談した。



「あのねーシパケイ。フィリップさんはねー シンガポールで事業をしていたからわかるのねー。

バンコクにはビジネスチャンスがあるねー。

フィリップさんは2年間ずっとビジネスチャンスを探してきたわけなのねー。」


フィリップさんによると、彼はシンガポールで貿易関係の会社を経営していたそうだ。

会社経営によりそこそこ儲かっていたそうだが、経営に疲れたので事業を売却し、周辺国で休養しながらビジネスチャンスを探していたらしい。


バンコクの居心地が良かったので2年もブラブラしてしまったが、そろそろ事業を始めたいそうだ。

経験豊富なフィリップさんが協力するからシパケイと一緒に事業をしようということになった。



シパケイも起業について検討する際に、日本で彼が勤めていた特殊車両製造会社の社長からの言葉を思い出していた。


部品がもしタイで安く仕入れられるなら検討したいと。


最終的に特殊車両製造をタイで行うためにまずは部品をタイで製造し、日本に輸出する事業を出来ないか。



「あのねー そういう商売だったら経験者の全部フィリップさんに任せるのねー。」



二人で相談した結果、シパケイが日本から部品製造を受注さえしてくれればフィリップさんが部品製作発注までしてくれる。

シパケイは日本の会社へ受注だけ担当すれば良いので、今のコールセンターの仕事は引き続き続けることになった。



事業の内容や役割分担が決定したのでシパケイは事業を具体的に進めるべく4日間の休みを取り、以前勤めていた特殊車両の製造会社の社長にタイでの部品製作を受注すべく日本に向かった。


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シパケイ君。君はもう社外の人間なんだから事前にアポぐらい・・・アポって知ってる?

こんな事でわざわざタイから来たんだね・・・。メールで済むと思うし・・・・

折角来てくれたから試しに部品を発注してみようか。工場長に言っておくよ。 


期待はしていないけど。




幼稚園児の送迎バスの園児用シートを固定する部材のうち汎用的な部材の加工図面をもらう。
すぐにフィリップさんに転送し、製作してもらうように頼んだ。



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タイに戻るとフィリップさんから思わぬリクエストがあった。



「あのねー タイでは無許可で仕事をしたら捕まって強制送還なのねー。」

「フィリップさんは強制送還されたくないから労働許可証が必要ねー。」

労働許可証をとるにはまず会社設立ねー。事務所兼作業場になる良い物件見つけたから契約しないとねー。」



フィリップさんによると会社設立費用、労働許可証取得費用、事務所の家賃と保証金、フィリップさんの給料で合計30万バーツが
必要とのこと。


仕方なくシパケイは言われるがままフィリップさんに30万バーツを渡した。


フィリップさんはシンガポールで貿易会社を成功させた優秀な人なので間違いは無いだろう。



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さらに1か月経過してフィリップさんから連絡があった。



「あのねー 今月のフィリップさんの給料と事務所の家賃が必要ねー。」



会社設立はまだ終わってないようだった。 部品の発注は進めてくれているとは思うが、とりあえず発注の進捗状況を聞いてみた。



「あのねー 会社の設立が終わらないとお金をつかえないねー。」



部品の製造代金を経費として税務署に認めてもらうには会社設立が終わっている必要があるので登記完了を待っているそうだ。

さすがフィリップさん任せて安心だ。色々考えてくれている。


シパケイはフィリップさんに今月の給料と事務所の家賃合わせて65,000バーツを渡す。



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さらに1か月経過してまたフィリップさんから連絡があった。


「今月のフィリップさんの給料と事務所の家賃が必要ねー。
それと部品の製作費用は前払いだーから合計10万バーツが必要ねー。」


部品が出来ていないのにお金が必要なのか聞いてみた。


「あのねー 全く信用の無い外国人の新しい会社の仕事を前払い無しで請ける工場は無いねー。」



確かにフィリップさんの言う通りだ。

製作費用の35,000バーツを含めて10万バーツを支払う。




発注してもらった日本の会社に部品の原価を確認したところ、約50,000バーツ。 

35,000バーツの原価に利益を20%乗せても42,000バーツになるので日本の製作費を下回る。

さすがフィリップさんだ。



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さらに1か月後にようやく部品が届いた。


予想外なことに、合計30㎏の部品を日本へFedExの国際宅急便の航空便で発送するために送料が8,000バーツもかかった。


送料の8,000バーツを加えて原価は43,000バーツ。

利益を乗せると今後の取引がやっていけるか心配ではあったが、最初の納品を終えて一息ついたシパケイであった。


しかし日本からの返答は期待を裏切るものだった。