海外転生3-タイに行ったら本気出さなくてもやっていける
「海外転生」
それは日本で自らの行いが原因で居場所が無くなった者、能力が無く努力をしないのに自分はどうして評価されないのか現状に不満を持つなどの社会不適合者が新たな新天地として海外に活路を求め新しい人生を歩むこと。
この話はタイでなら俺でも勝ち組になれると信じてやってきた無職で職歴も無い自意識過剰な男の話。
「What is your name? と聞くのは相手にとって実は失礼なんですよ。だから俺はMay I have your name?って言います」(シパタケ談)
第2話 赤い人材紹介会社
昨日見た日本語フリーペーパーの求人欄に大量の募集広告を掲載していた会社の連絡先に連絡し、今日の午後に面接のアポをとったので早速向かうことにした。
面接といえばスーツを着ていくべきだが、俺はスーツなど持っていない。所詮はタイなのでスーツは無くても大丈夫であろう。とりあえず俺が持ってきたズボンの中で無難な黒っぽいズボンと白シャツを着ていくことにした。さらに万全を期すために昨晩ナナの露店で買ったネクタイをして向かった。
フリーペーパーの広告に書かれたビルに向かい、その受付で赤い服を来た受付嬢に就職の面接に来たことを伝える。
日本人に取り次いでもらえるかと思ったが、なぜか大量の書類を渡された。
英語と日本語でこれまでの経歴や職歴、希望給料や勤務地を書けとのことだ。
大量の書類に書き込むのは面倒なので、用意していた手書きの履歴書を受付嬢に渡し、履歴書はあるから書類への書き込みは不要だろう言ったが、受付嬢はゼスチャーでこの書類に記載しろと俺に渡す。
タイ語と英語で粘り強く交渉したが、最後に受付嬢がキレ気味に
YOU HAVE TO WRITE THIS PAPER!
と怒鳴って用紙を押し付けられた。
こいつは受付嬢のくせに顔はBクラスでスタイルも良くない上にこの態度。
俺の現役時代はこいつより綺麗なタイ人女が無料で股をひらいたものだ。
こんなブスとは金をもらってもセックスしてやらんぞ!と日本語で悪態をつきつつ仕方なく俺は大量の書類に記入し始めた。
こんなに手書きで多くの書類を書いたのは高校以来だ。右手が震えている。
それでも俺の職歴はシンプルなので空欄はそれほど埋まっていない。
書き込んだ書類を受付に渡すと面接室に通された。
いよいよ面接かと思ったらタイ人女性スタッフが来て英語で質問を始めた。
タイ人女性による英語での面接は
What is your name?
との質問から始まり、
What kind of Thai food do you like?
とか
Please explain your main job experience?
少しづつ難易度が上がっていく。
タイ人の英語の発音はフィリピン人と違って分かりづらいが、この程度の質問内容なら俺でも理解出来る。
最後の質問は良く分からなかったが、impression とin Thailandは聞こえたのでタイで印象に残ったエピソードの質問だと思い、現役時代、本場タイのルンピニースタジアムでのムエタイの初勝利について、立ち上がって華麗なシャドウと共に試合を再現しつつ、熱く語った。
しかし相手の反応はイマイチ。
途中から興味が無くなっていくのが俺にも伝わってきた。
俺の高度な英語についてこれなくなったのか?
英語で10個の質問の後、タイ語での質問に切り替わった。
内容は英語と全く同じ。
さっきの英語の質問と同じことを俺はタイ語で答えた。
最後の質問は俺のテンションがすっかり下がってしまっていたのでムエタイ初勝利のエピソードではなく、ジムの仲間と共に路上で引ったくりを捕まえたエピソードを話した。
この話は俺の鉄板ネタだ。
抵抗する引ったくりに向かって、火のついたライター越しに持っていた殺虫剤吹きかけて引火した殺虫剤が火炎放射のようになって引ったくりを怯ませた話だ。
何故かこの鉄板ネタも後半は半分以上聞き流された感じではあった。
相手のリアクションが無い英語とタイ語の面接はどうやら語学テストだったようだ。
違うエピソードを織り交ぜた俺のトーク。
恐らく英語・タイ語共に満点に違いない。
待合室で待たされること30分。俺は再度面接室に呼ばれた。
ここで対応したのは横柄な日本人だった。
面接官:
シパタケさんの職歴はボクサーと飲食店だけねえ?
34歳で職歴無しだとちょっとキツイよ?
シパタケ:
いえプロボクサー引退後はボクシングジムで6年間事務処理をしたのでエクセルとワードも使えます。タイ語も英語も出来ます!
面接官:
どうしてボクシングジムの職員を辞めたの?
シパタケ:
タイから日本に招聘したタイ人ボクサーが逃げ出した事件が発生しまして、その責任をとる形で退職しました。
面接官:
英語・タイ語共にB評価ね。ちょっと語学が出来ても職歴が無くて30歳を超えてると紹介する仕事無いよ。
ところでラヨーンで働く気ある?
シパタケ:
え? ラヨーンですか?
すみません現在もボクシングジムに毎晩通っているのでバンコクの中心部で働きたいです。
面接官:
ラヨーンにもボクシングジムはあると思うよ?
田舎は物価も安いし。
シパタケ:
面接官:
職歴無しのボクサーで、バンコクオンリーか・・・使えんな。
語学と事務能力をアピールするか・・・。
あんまり可能性無いけど・・・登録だけはしておくな。
あと希望給料6万バーツって交渉可能だよね?
シアタケ:
日本人の最低賃金は6万バーツ(当時)と聞きましたが・・・
面接官:
あんなの方便。あんたの経歴なら5万がMAXだよ。しかもラヨーンで。
シパタケ:
面接官:
需要と供給って分かる?
シパタケさんみたいにバンコクを離れたくない日本人が多いんだよ。
逆にラヨーン方面には日本の会社が多いから求人数は多い割りに希望者が少ないんだよ。
だからラヨーン方面は給料も高めに設定され、採用に対する職歴のハードルも低くなってる。
まあラヨーンで働く気になったら連絡して。すぐ紹介できる案件があるから。
偉そうな面接官の面接を終えて解放された。
今日面接に来たこの会社は紹介する人材紹介会社であり、今日は仕事を紹介してもらうための登録を行ったということ。
適切な求人案件があればこの人材紹介会社から案内が来て、紹介先の会社で本当の採用面接を行うらしい。
それにしてもさっきの面接官はやけにラヨーンを押してたな。
俺はタイに来てまで田舎に住むつもりはない。ソイカーボーイとテーメーに通えないタイは俺にとって住む価値が無い。
その後は毎日ソイカーボーイに通いつつ人材紹介会社からの仕事の紹介を待った。
1ヶ月が経過しても連絡は無かった。
そろそろ俺の貯金も少なくなってきた。
この1か月間、無料でのセックスに応じた女はゼロ。
セックスするにも金がかかる・・・俺には金が必要だ。