帰国したタイの変な日本人

バービアを愛した中年デブの元タイ沈没者がタイを想ってタイを舞台にした小説のようなものを書いてます。

腹上死して生まれ変わってタイ人に87話

機械製造会社の駐在員ユウイチは泥酔しながらも若いゴーゴー嬢をホテルに連れ込み行為の最中に突然死してしまう。

死んだはずのユウイチは目覚めたとき、タイ人中学生の【アット】になっていた。
コンケン大学を卒業したアットは前世で勤務していた会社に入社する。

第1話はこちらから
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第87話 日本研修2



新入社員研修の前半のオリエンテーションが終了し、いよいよスパルタ研修が始まる。

内容は俺の前世の新入社員研修と同じコンサルティング会社主催の【ラジオ体操】と【私の抱負】だった。




【ラジオ体操】体育館の中で体操服に着替えた新入社員が全員で一斉にラジオ体操を行うだけ。

内容は普通のラジオ体操第一だが、竹刀を持った鬼のような体育会系のコンサルティング会社の社員からの怒号が飛ぶ。


「こらぁ~ 指先が伸びてないぞ! やり直し!!!」


「お前だけ合ってないぞ! 出来ないなら会社を辞めてしまえ!」


「何回言ったらわかるんじゃ~ ラジオ体操ひとつ出来んのか?」



すべての社員が動きを揃えて気合の入ったラジオ体操をするが、鬼のようなコンサル社員が竹刀で床を叩きながら怒号ややり直しを命じるので、延々と同じラジオ体操が繰り返れる。


朝から夜になるまで延々とラジオ体操を繰り返し、疲労のため途中で倒れる社員や、少ない休憩でトイレにも行けず、おしっこを漏らす女子社員もいた。


俺を含む新入社員達は必死の形相でオーバーアクションなラジオ体操を何度も何度も一生懸命に繰り返されるが周囲が暗くなってもラジオ体操が繰り返される。

これは団体行動を学ぶと言うより、理不尽なストレスを与え続けることでストレス耐性をつけさせる研修だと思う。

この研修が将来の役に立つかどうか全く分からない。

逆にトラウマだけが残る気がする。


俺は前世の研修でいくら気合を入れても夜になるまで終わらないことを知っていたので、中盤は少し力を抜いてなんとか夜まで耐えきった。



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翌日。
ラジオ体操を12時間延々と繰り返した結果、体中が筋肉痛というか極度の筋肉疲労で歩くこともままならない状態で行われるのが【私の抱負】だ。

これは前日の運動とは異なり、各自が自分の目標を3分間スピーチするだけ。


場所は街の中心部の歩道橋の上に一人で立って。

大声と言うより絶叫に近い声でスピーチしなければならない。




恥ずかしさを克服するための試練だとコンサル社員は言う。

3分間の抱負を叫んだ後に道路の向こうからダメ出しされる。


「声が小さい」

「心がこもっていない」

「全然内容が伝わらない」


だいたいこんなダメ出しをされてから次の新入社員が続いてスピーチを行う。

良いスピーチをした者から抜けて良いという話であったが、午後の3時を過ぎても誰もOKをもらえていない。

夕方になってOKをもらう者も出始めたが、総勢20名ほどの新入社員全員がコンサル社員にOKをもらうまで、結局は夜の8時までかかった。


OKをもらった新入社員も全員の発表がOKをもらうまで、道路の向かい側で立ち続けるのも苦痛である。

昨日のラジオ体操に続いて声をガラガラに枯らしながら10時間以上の苦行を味わうのだった。





こんな2日間の無意味な研修は10年以上続いているらしい。
さすがに俺が死ぬ数年前から内容が変わったそうだが、この研修は悪いことばかりでは無いようだ。

同期社員との絆が深まるし、新しい配属先で先輩や上司から「お前も【ラジオ体操】やったか?」などと新入社員とコミュニケーションを取り、先輩社員と共通の体験をすることで職場の団結に寄与するかもしれない。

苦行を共有することで同期や先輩・後輩との仲間意識は強くなっていたと思う。今で言うと相当ブラックな研修だったが。



タイからの「お客さん」であった俺に【ラジオ体操】を体験させるのは俺にこの集団に馴染ませようとする上層部の親心なのだろうか?


もしかしてこの後も新入社員達と9か月に及ぶ【共同生活】に俺も参加するのか?
年下の新入社員達との【共同生活】はかったるいな。



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